藍色の空に、星が不安げに瞬きを繰り返す…-。
————————
カリバーン
「なぜこんな場所へ来たんですか。 俺は城で待っていてくれと言ったはずです」
————————
厳しい表情で私を見据えたカリバーンのことを思い出し、胸が痛くなる。
(手助けがしたくて来たのに、怒らせてしまうなんて……)
あの後……
基地の中から、カリバーンが指示を与える様子を見て、自分がどれほど場違いかを思い知らされた。
鬼気迫る表情で任務に当たるカリバーンは、私の知っている彼ではなく…-。
(兵士として前線に出るってこういうことなんだ……)
やるせない気持ちを覚え、じんわりと涙が浮かんでくる。
また他の人に心配をかけないよう、私はそっと基地の外へ出た…-。
基地から離れるわけにはいかず、私は近場の岩に腰を下ろした。
草の匂いのする夜風を吸い込みながら、満天の星を仰ぐ。
(夜空の星を見ているぶんには怖くないけれど……)
視線を落とすと、不気味に真っ暗な荒野が広がっている。
どこか遠くの方で、獣が吠える声も聞こえた。
(やっぱり恐ろしい……すごく危険な場所なんだ)
(カリバーンが怒るのも、当たり前だ……)
そう実感しつつ、立ち上がったとき……
カリバーン「……何をしているんですか?」
○○「!」
振り返ると、血相を変えたカリバーンの姿があった。
カリバーン「この辺りはモンスターの巣窟なんですよ」
○○「ご、ごめんなさい」
私の声に重なるようにして、またモンスターの遠吠えがした。
けれど今度はずいぶんと近い。
○○「……!」
ハッとして周囲を見回した私の腕を、カリバーンがぐっと掴み、自分の胸へと引き寄せた。
彼は私の身体を抱え込んだまま、周囲に警戒の視線を走らせた。
○○「……」
どくん、どくんと、彼の鼓動が体に響いてくる。
カリバーン「……大丈夫、去りました」
○○「よかった……」
カリバーン「だから言ったでしょう? 危険な場所だと」
冷たい声で言い放たれ、思わず肩がビクリと揺れてしまう。
○○「すみません……お手伝いしたいと思ったのに、逆に迷惑を……。 でも……」
震える手を握りしめて、私はカリバーンの顔を真っ直ぐに見つめた。
○○「無事で良かったです……カリバーンが大怪我でもしていたら、どうしようって……」
カリバーン「……!」
そんな私を見下ろしたカリバーンの顔が、苦しげに歪められる。
○○「カリバーン……?」
カリバーン「……くそっ!」
悔しげに絞り出された声に、驚いていると……
○○「……!!」
突然、草の上に押し倒された。
○○「カリバー……んっ」
手首を抑えつけられ、強引に唇を奪われる。
○○「カリバーン……っ!」
カリバーン「黙って」
角度を変え、さらに熱い口づけを与えられる。
強引で乱暴で、でも心の底から求められているようなキスだった。
(どうして……こんな……)
カリバーンの胸をなんとか押し返そうとするけれど、彼の強い力に抵抗することはできなかった。
カリバーン「○○、俺を拒むんですか……?」
○○「ちが……」
私の瞳に浮かんだ涙に気づき、カリバーンがハッと目を見開いた。
手首をきつく掴んでいたカリバーンの指から力が抜ける。
カリバーン「すみません……○○が心配して、ここへ来てくれたことはわかっているんです」
私を抱え起こしながら、カリバーンが苦しげに目を伏せる。
カリバーン「……討伐作戦が上手くいかず、救援頼みという現状に、かなり焦っていました。 だから貴女を迎える余裕を持てなくて……。 その苛立ちをこんな形で貴女にぶつけてしまった……」
○○「私のほうこそごめんなさい……来るべきではありませんでした」
カリバーン「……」
カリバーンが、伏せられた瞳をそっと開く。
カリバーン「○○……乱暴にしないので、抱きしめてもいいですか?」
○○「え……」
戸惑いながらも頷くと、そっと優しく抱きしめられた。
カリバーン「貴女には安全な場所にいて欲しい。でも、本当は顔が見れて嬉しかったんです」
○○「カリバーン……」
カリバーン「それなのに貴女を怯えさせるようなことをしてしまい……。 自分の不甲斐なさに腹が立ちます」
顔を上げ、カリバーンの目をのぞき込んでみる。
強い人だと思っていた彼の瞳は頼りなく揺れていて……
カリバーン「出発のとき……俺を案じる貴女の顔を見て、今までにない気持ちが胸に生まれました」
———————–
カリバーン「……」
○○「カリバーン?」
カリバーン「いえ……。 わかりました、約束します。 必ず討伐を成功させ、無事戻ってみせます」
———————–
カリバーン「……必ず無事に、一刻も早く貴女の元へ戻らないとと思い、焦ってしまって……。 結局、その約束も果たせていない……」
○○「……私は、カリバーンの力になりたくてここへ来たんです。 だから、あなたのためにできることは何でもしたい……」
カリバーン「○○……。 ありがとうございます」
カリバーンは、ぐっと引き寄せた私の肩に顔を埋め、安堵するように深い息を吐いた。
カリバーン「しばらく……このままで」
○○「はい……」
彼の気持ちが落ち着くように、私はそっと背中に手を回した。
カリバーン「必ず……貴女と無事に帰る……」
つぶやくように吐き出された言葉を受け止めるように、私は深く頷いた。
これからの彼の戦いを支えたい……夜空の星達にそう強く願いながら…-。
おわり。