俺が兵を率いて遠征に出てから、数日…-。
カリバーン「……」
夜営地で手頃な岩に腰掛けながら、ゆらめく焚火を見つめる俺は、今は遠く離れている○○へと思いを馳せていた…-。
―――――
○○『……慣れていたとしても、危険なことに変わりはありません。 だからどうか……気をつけてください』
カリバーン『……』
○○『カリバーン?』
カリバーン『いえ……』
――――
(○○……)
遠征に出て以来、出立前に見た彼女の泣き出しそうな顔が頭から離れず……
ふと気を抜くと、今すぐにでも会いたい気持ちでいっぱいになる。
(こんな気持ちは、初めてだ)
(それに……)
俺は自分の両手に視線を落としながら、モンスターとの戦いを思い返す。
(……死にたくない、か)
(国のためなら、死をも厭わないと思っていたのに……)
(いつの間にか、生きてもう一度貴女に会いたいと願う自分がいて)
(けれど、一国の王子として、そして騎士として、この気持ちは……)
兵士「……様。あの、カリバーン様」
カリバーン「えっ?」
俺が顔を上げると、そこには一人の兵士の姿があった。
カリバーン「ああ、悪い。考え事をしていた。 一体どうした?何かあったのか?」
兵士「はっ! 食事のご用意ができましたので、準備ができましたら、あちらにお越しください」
カリバーン「わかった、ありがとう」
そう言って、俺は腰を持ち上げようとする。
けれども……
カリバーン「……」
兵士「……? カリバーン様……?」
俺の視線に気づいたのか、兵士は不思議そうな顔をする。
カリバーン「ああ、すまない。すぐに行く。 ただ……その前に、少し聞きたいことがあるんだ」
兵士「えっ? わ、私に……ですか?」
カリバーン「ああ。その……おまえには、大切に想う誰かは、いるか?」
普段の自分からは考えられないような質問に、思わず口ごもってしまった。
そんな俺の様子から何かを察したのか、兵士は優しげな表情を浮かべながら口を開く。
兵士「はい、おります。恥ずかしながら……私の妻です」
カリバーン「そ、そうか。 ……その、やはりこういった時でも、会いたいと思うか? ああ、もちろん、どんな答えでも責め立てる気はない。 だから、正直な気持ちを教えてほしいんだ」
俺、恥じらう気持ちを必死に抑えながら問いかける。
すると……
兵士「はい、もちろんです。ですから……。 一刻も早く討伐を成功させ、必ず生きて帰りたいと思っています。 こんな時に、何を浮ついたことを……と思われるかもしれませんが」
そこまで言った時、兵士は一瞬だけ目を伏せる。
けれども、すぐに顔を上げ……
兵士「恐ろしいモンスターと対峙した時に、私が立ち向かえるのも。 妻を守りたい、必ず生きてもう一度会いたいと願う気持ちがあるからこそですので」
カリバーン「……!」
兵士の真っ直ぐな言葉を受け、目を見開く。
けれども、次の瞬間……
カリバーン「……そうか、そうだな」
(まったく。俺は一体、何を迷っていたんだ)
呆れたように微笑んだ後、ゆっくりと立ち上がり、兵士へと歩み寄る。
そして……
カリバーン「ありがとう……今回の遠征、必ず成功させよう」
俺はそう言いながら肩を叩くと、兵士は微笑み、力強く頷いたのだった…-。
…
……
カリバーン「ふう……」
食事の後、俺は夜営地の隅で満点の空を見上げる。
(……○○……)
―――――
カリバーン『わかりました、約束します』
カリバーン『必ず討伐を成功させ、無事に戻ってみせます』
――――
カリバーン「……貴方はあの時、ひどく不安げな顔をしていましたが……。 約束は、必ず守ります」
俺は胸に手を当てながら、誓いの言葉をそっとつぶやく。
(だから、俺が帰ったその時は……)
(どうかその時は、笑顔で迎えてください)
(そして、願わくば……)
カリバーン「俺を、貴女の……貴女だけの騎士にしてください」
胸に当てた手を強く握りながら、心に秘めた願いを口にする。
そんな俺の姿を、夜空の星々だけがそっと見つめていた…-。
おわり。