時間が経ち、祝勝会の雰囲気もだいぶ落ち着いてきた。
やっと二人きりになれた私とカリバーンは、並んで中庭を歩いていた。
カリバーン「……」
けれど、お互いどこかぎこちなくて……
(少しの間離れていただけなのに、どうしてだろう)
(なんだかすごく緊張して……)
そのうえ兵士さん達のからかいの言葉を思い出して、ますます恥ずかしくなる。
カリバーン「なんだか……すみません」
○○「え?」
カリバーンが、困ったように頭を掻く。
カリバーン「あいつら……悪気があるわけじゃないんです」
(あいつら……さっきの兵士さん達のことかな?)
カリバーン「不快な思いを、貴女にさせてしまっているなら……」
○○「不快だなんて……!」
思わず声を上げた私に、カリバーンは驚いたように目を瞬かせた後……
カリバーン「……遠征先で○○のことを何度も思い出しました」
優しい声色が、彼の口から紡がれる。
カリバーン「貴女に話したいこともたくさんあったんです。 でもいざ本人を前にすると、うまく言葉が出てこないな……おかしいですね」
カリバーンが私を見下ろしながら、照れ笑いを浮かべた。
精悍な顔に浮かぶ爽やかな笑顔を見ると、私の胸は自然と高鳴る。
○○「あの……本当に無事でよかったです」
カリバーン「ありがとうございます」
○○「城壁の塔から帰還する部隊の姿が見えたとき、胸がいっぱいになりました……」
そのときのことを思い出すだけで、胸が熱くなってくる。
カリバーン「○○……」
驚きの表情が、やがて真摯なものに変わり……
カリバーン「今の言葉とその態度、俺は期待してもいいんですか?」
○○「……期待……?」
きょとんとしてカリバーンを見つめると、彼はふっと破顔した。
カリバーン「無意識でその振る舞いは、ずるいですよ」
○○「え……?」
ますます混乱する私に向き直り、カリバーンが剣を鞘から抜く。
そしてその剣を地面に突き立て、その場に跪いた。
カリバーン「名前で呼ぶ約束ですが、今だけはお許しください。 ○○姫……貴女を守る騎士として、俺に忠誠を誓わせてください」
まっすぐな瞳で見上げられ、胸が高鳴る。
カリバーン「覚えていますか? 遠征に出るときのことを……」
○○「え……?」
——————-
○○「……慣れていたとしても、危険なことに変わりはありません。 だからどうか……気をつけてください」
カリバーン「……」
○○「カリバーン?」
カリバーン「いえ……」
——————-
カリバーン「出立前に見た○○の顔が、遠征先でもずっと、頭から離れませんでした」
○○「カリバーン……」
カリバーン「俺はこれまで、どんなときも命懸けで戦ってきました。 たとえそれで死んだとしても、国を守るためならかまわないと。 でも……泣き出しそうな貴女の顔を思い出したら。 何が何でも討伐を成功させ、無事に帰りたくなったんです」
カリバーンは私の手を自分の頬に当て、穏やかな顔で瞳を閉じた。
カリバーン「不思議です。死んでもいいと覚悟するより、死にたくないと思う方が強くなれる。 貴女のおかげです」
○○「そんな私……何もしてません」
カリバーン「いいえ。俺に特別な気持ちを教えてくれました。 大事な人がいて初めて、本当の意味で強くなれるということを気づかせてもくれた」
熱のこもった強い眼差しで見つめられ、息がうまくできない。
カリバーン「……返事を聞かせて? 俺を○○だけの騎士にしてくれますか?」
○○「はい……」
真っ赤な顔で頷くと、カリバーンは嬉しそうに目を細めた。
カリバーン「我が姫。この命尽きるまで、貴女の剣となり盾となり、揺るぎない忠誠を捧げることを誓います」
カリバーンの凛とした言葉が、胸に熱く響き渡る。
○○「はい……ありがとうございます、カリバーン」
照れながら返事をすると、立ち上がったカリバーンがその胸の中に抱きしめてくれた。
カリバーン「どんなときも大事にします」
広くてあたたかな彼の胸に顔を埋めると、力強い命の鼓動が聞こえてくる。
その音が、私の心をも強くさせてくれる……
そんなふうに感じながら、背中に回した腕に力を込めたのだった…-。
おわり。