よく晴れた、翌朝…-。
カリバーンは約束通り、私を町へと連れ出してくれた。
カリバーン「この辺りは昔から、他の地域にはいない巨大で獰猛なモンスターが多く出没します。 アヴァロンという国は、それらモンスターを討伐する目的のために発展してきました」
町の通りに出ている鍛冶屋ギルドの前を歩きながら、カリバーンが説明をしてくれる。
ギルドは、武器を手にとって吟味しているお客さん達で、活気に溢れていた。
カリバーン「なので、武器や防具の製造技術を修得している者や、扱いに長けた者が多いんです」
○○「なるほど」
カリバーン「今では武器や防具を求めて、国外から多くの人々がやって来ます。 モンスターに遭遇する危険があるにも関わらず」
○○「そうだったんですね……」
私は感心しながら、目の前に並ぶ武器を眺めた。
見たことのないものも多く、私の身長より大きな槍や大剣などもある。
(すごく重そう……これを皆、扱うんだ)
(武器……私にも扱えるようなものって、あるのかな?)
ずらりと並んだ武器を眺めながら、思考を巡らせていると……
カリバーン「すみません」
○○「え……?」
カリバーン「女性を武器屋に連れてくるなんて。興味ありませんよね……」
申し訳なさそうに謝りながら、カリバーンが首の後ろに手を当てる。
○○「いえ、楽しいです」
カリバーン「本当ですか……?」
○○「本当です。今もこの武器、すごく重そうだなぁって……。 私でも扱える武器ってあるのかなって、考えていました」
カリバーン「……ははっ」
カリバーンが口に手を当てながら、控えめな笑い声をたてる。
○○「カリバーン?」
カリバーン「貴女は、俺の予想しないようなことを口にしますね」
ふっと優しい視線を向けられ、胸が小さく音を立てる。
○○「そ、そうですか……?」
カリバーン「ええ。視察に訪れる女性は大概、武器の外見には興味を持っていただけるのですが……。 自分で扱おうと考える方は、初めてです」
嬉しそうに笑うカリバーンだけれど、私は恥ずかしくて思わずうつむいてしまう。
○○「カ……カリバーンの剣もすごく重そうですね」
カリバーン「これですか?」
カリバーンは、腰に携えている剣に視線を落とした後、そっと鞘に手を添えた。
カリバーン「そう……すごく重いですよ。この剣は、特別なので」
○○「特別?」
カリバーン「はい。私は剣を擁する王子……代々受け継がれている、特別な剣なので……。 兄は盾を持っています。最強の剣が私、最強の盾が兄……。 二人で、この国を守り導くことができるようにと」
ぐっと剣の柄を握りしめる彼の様子に、強く決意を感じる。
カリバーン「そのためなら、俺は命を懸けられるんです」
○○「命を……」
カリバーン「ああ、すみません……貴女の前だと、つい口数が多くなってしまうみたいだ」
カリバーンが、ふっと柔らかく瞳を細める。
(強くて、優しい人……)
(けど……)
カリバーン「○○?」
○○「立派だと思います……けど。 カリバーンに何かあったら……きっと皆悲しむと思います。 だから……」
カリバーン「……」
カリバーンの瞳が、困惑に揺れていた。
カリバーン「貴女は、優しい人だ」
この上なく優しい眼差しが注がれて、私は言葉を失った。
カリバーン「もちろん命を粗末にするつもりはありません。ですが……それが私の使命なので。 兄も、城の兵士も。皆、思いは同じはずです」
○○「……」
揺るぎない言葉に、切なさが込み上げる。
カリバーン「すみません、話を戻しましょう。剣の話でしたよね」
○○「あ、はい……でも、そんなに重い武器は、女性にはなかなか扱いが難しそうですね」
カリバーン「そうですね。女性だと鞘から抜くのも、一苦労するかもしれません。 でも我が国には勇猛果敢な女性剣士もたくさんいます。女性用の剣を持ってみますか?」
○○「いいんですか?」
カリバーンは王家御用達の武器職人を呼び寄せると、美しく装飾された繊細な剣を私に握らせてくれた。
カリバーン「これは王家の姫が持つために作られた護身用の剣です」
○○「すごく美しいですね……」
カリバーン「構えは、こう……」
○○「……っ!」
不意に後ろから抱きすくめられるように手を握られ、心臓が跳ねた。
カリバーン「失礼しました……つい」
振り返りカリバーンの顔を見上げると、彼の端正な顔が間近に迫って……
○○「……!」
吐息がかかるほどの距離で視線がぶつかり合い、何も言えなくなってしまう。
その時…-。
カリバーン「……!」
唐突に、不安を感じさせるような重い鐘の音が辺りに鳴り響いた…-。