死にもの狂いで走り続けて…-。
何とか墓地を抜けて、元いた街へと戻って来ることができた。
しかし楽しげだったロトリアの街にはやはり人影はひとつもない。
(あれは……アルタイルさんだったの?)
(信じられない。でも……)
確かに姿形は似ていたのに、彼の優しい雰囲気など何ひとつ感じられなかった。
(でも、もし本物のアルタイルさんだったら……?)
(本当に亡霊がいて、取り憑かれてしまっていたら……?)
混乱する頭を抱え、私はその場に座り込んでしまう。
優しい彼の表情を思い出して、胸が苦しくなる。
(アルタイルさん……)
その時だった。
??「○○……○○! どこにいる!?」
○○「この声は……」
立ち上がり、声の聞こえた方を見る。
だけどそこにいたのは先ほど墓地で見かけた恐ろしいモンスターだった。
○○「……っ!」
恐怖のあまり、その場から離れようとすると…-。
アルタイル「○○、俺だ! さっきはすまなかった!!」
強い力で腕を引かれ、あっという間に抱き寄せられる。
○○「え?」
駆け寄ってきた彼は、まぎれもなくアルタイルさんだった。
いつもと変わらない、優しい声と穏やかな瞳が、私を包み込む。
アルタイル「実はあの後、もう一度城に行って俺のアイデアをウィル王子に話したんだ。 そうしたら、この衣装のあまりの怖さに、ウィル王子が創作意欲をかきたてられてしまって……」
○○「……? どういうことですか? つまりさっきのは……」
アルタイル「すまない……あれは作り物の演出だったんだ。 すべてはウィル王子のロトリア収穫祭イメージビデオの撮影で……」
○○「撮影……?」
アルタイル「ああ、ウィル王子がぜひ来年のプロモーションのために、残したいと言ってね」
○○「ならあの墓地も、この人がいない街も……?」
アルタイル「ああ、すべては撮影のためだったんだ。 あの墓地はあらかじめ用意されたセットだし、モンスターも特殊メイクをした街の人達だ」
○○「そ、そんな……」
アルタイル「○○……っ!?」
ほっとしたのか、涙腺が緩んでしまうと、彼が慌てて顔を覗き込んできた…-。
アルタイル「すまなかった……真面目に取り組み過ぎたせいか、思いの外、○○を怖がらせてしまった……」
彼の大きな手のひらが、私の頭をいたわるように撫でる。
○○「アルタイルさん……」
アルタイル「お前を驚かせたかったのに、俺は楽しませることと怖がらせることの差がわかっていなかったようだ。 なかなか難しいものだな……」
アルタイルさんは困ったような顔をして、涙に濡れる私の目元に唇を落とす。
(暖かい……)
(よかった。いつもの優しいアルタイルさんだ……)
また涙腺が緩み、じわりと涙が目に浮かぶ。
アルタイル「……困ったな……○○を泣かせたかったわけじゃないんだが……本当に悪かった……」
○○「あ……」
彼の逞しい腕が、力強く私を抱きしめる。
アルタイル「どうか泣き止んではくれないか? 俺はお前のその可愛らしい笑顔を見たかっただけなんだ……」
○○「アルタイルさん……」
指先で涙を拭って、彼をまっすぐに見つめて微笑む。
するとその時、彼の唇がそっと私の唇に重ねられた。
それは触れるだけの慰めに満ちた口づけだった…-。
優しげな触れ方に、彼のしっかりとした愛情を感じて、私はゆっくりと目を閉じる。
そんな私達を、収穫祭の幻想的な街並みだけが、静かに見守っていたのだった…-。
おわり。