夜が深まり、ますます空気が冷たくなっていく…-。
森で足を滑らせ、動けなくなったところを、カノトさんが見つけてくれた…-。
カノト「……〇〇」
でも、私を抱きしめてくれたカノトさんは、むっとした表情で……
(カノトさん、怒ってる……? どうして……?)
理由がわからなくて、声がうまく出せない。
(もしかして、勝手に移動して迷ったから……?)
〇〇「ごめんなさい。私、こんな……」
カノトさんは、綺麗な髪を揺らしながら、首を振った。
伏せられた長いまつ毛が、震えている。
カノト「謝らないで……違うから。違う、けど……」
形のいい唇を噛み締めて言い淀むカノトさんに、私は目を何度も瞬かせた。
カノト「上、上がるよ」
カノトさんは顔を強張らせたまま、私を一度解放すると、まずは自分だけ崖上によじ登る。
そして上から手を差し伸べて、崖の上に私を引っ張り上げてくれた。
〇〇「ありがとうございます」
カノト「……」
カノトさんは私の手をきつく掴んで離さないまま、歩き始める。
(カノトさん? やっぱり、様子が変……)
〇〇「あの…-」
ためらいがちに声をかけると、黙って先を歩いていた彼が、突然足を止めた。
〇〇「……?」
カノト「〇〇が危ない目、あっているのかと思うと、すごく怖かった……」
肩を震わせながら絞り出すような声で言われる。
ハッとして、私は目を見開いた。
(それであんな表情を……)
〇〇「ごめんなさい……」
こちらを振り向くカノトさんは、水晶玉のように美しい瞳に涙の膜を貼っていた。
カノト「本当に、本当に、怖かったんだから……」
〇〇「……心配してくれて、ありがとう」
カノト「……っ」
私は自然とカノトさんに手を伸ばし、柔らかいその髪を優しく撫でる。
(カノトさんは、どうしてこんなに私の心を震わせるんだろう……?)
カノト「……っ」
撫でられたことに驚いたのか、カノトさんは瞳を見開く。
けれど、すぐに気持ちよさそうに今度は目を細めて……
(もっと撫でていたいけど……そういうわけにもいかないよね)
名残惜しさを感じながら、そっと手を離す。
カノトさんも切なそうな眼差しを私に注いだ後、口を開く。
カノト「〇〇のために森に行こうと思ったけど、もういい……」
(え……? どういう意味?)
怒っているわけではないとはわかるけれど、カノトさんの真意はわからないまま……
森の闇と静けさが、そんな私の心を揺さぶった…-。
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