森で崖下に落ちたところを、カノトさんに助けられてから数日…-。
今日はカノトさんに誘われて、また九曜の街並みを歩いていた。
美しい瓦屋根と白壁が連なる道に見とれながら、ちょうど大通りに戻ってきたところ……
カノト「〇〇の瞳、輝いてる」
〇〇「え? ……うっとり眺めてしまいました。白い壁がまぶしくて、とても美しかったです」
カノト「〇〇が嬉しいと、僕も嬉しい」
屈託のない、無邪気な笑みを向けられドキドキしてしまう。
カノト「ねえ、そろそろ森、行こう」
〇〇「そうですね。えっと……地図によると……」
広げようとした地図を、さっとカノトさんに取り上げられる。
〇〇「……っ!」
私は驚いて、カノトさんの綺麗な白皙の顔を見つめた。
カノト「手、繋げない」
言うが早いか、カノトさんが私の手を取って、ぎゅっと握り締める。
カノト「さあ、行こう」
満足げな微笑をたたえたカノトさんは、私の手を引いて迷いなく進んでいく。
〇〇「……道は大丈夫なんですか?」
少し不安になってやんわりと聞くと、カノトさんは大きく頷いた。
カノト「うん。大丈夫、もう覚えた」
明るい声で答えるカノトさんは足取りもしっかりと、自信満々で歩いている。
(本当だ……ちゃんと道順は把握してるみたい)
カノト「こっち」
カノトさんは私をリードしながら街を進む。
その頼もしげな足取りが嬉しくて、私は黙ってカノトさんについていった…-。
…
……
森に着く頃には、橙色の夕陽が木々を紅葉させるかのように差し込んでいた。
カノト「こっち側、通りやすい。木の根がないから」
〇〇「ありがとうございます」
カノトさんが教えてくれる通りに歩くと、足場の悪いところを上手く避けて進むことができる。
カノト「ちょっと待ってて」
カノトさんは私の手を離して先に行くと、邪魔になりそうな大きな石を取り除いてくれた。
それからも木の枝でくもの巣を払ってくれたりと、私が歩きやすいように整えてくれる。
(会ったばかりのころは、後ろをついて歩いてきてたのに、それが今は……)
少しの間の成長ぶりに、私は目を見張った。
(……ちょっとだけ、離された手が寂しいかもしれないな)
そんなことを思っていると…-。
カノト「お待たせ! 大丈夫、行こう」
〇〇「あ…-」
もう一度、私の手をしっかりと握って、自信を持った足取りで前を進んでいく。
(カノトさん……本当に変わったような気がする)
〇〇「頼もしいですね」
カノト「……っ!」
その言葉を聞いたカノトさんが、いきなり足を止めて振り返った。
〇〇「……カノトさん?」
夕陽を映した瞳で私を真っ直ぐ見つめ、ゆっくりと端正な顔を近づけてくる。
心臓が止まりそうになりながら、目をつむると……
〇〇「……っ!」
唇に柔らかい……濡れた感触が落ちる。
〇〇「ん……っ」
カノト「ここもやっぱり柔らかい……」
火照った私の頬を指で撫でながら、カノトさんが囁く。
それは唇のことなのか、それとも頬のことなのか……
カノト「きみと会って、知った。女の人は、男が守る。好きな人なら、なおさら……」
蜜のように甘い吐息が鼓膜をそっと撫でた。
そして角度を変えてまた唇を塞がれて……
〇〇「ん……」
(気が遠くなりそう……)
息苦しくなって肩をすくめた。
すると名残惜しそうにしながらも、ようやくキスが解かれる。
カノト「ようやくわかった。このドキドキは、好きのドキドキ……僕、きみが好き。大好きだから……。 これからは、僕がきみを守る」
唇に吐息がかかる距離から、透き通った宣言が私の胸に届く。
〇〇「ありがとう……カノトさん」
小さく頷き返すと、また甘いキスが落とされる。
わずかの間に急激に男らしくなった彼の腕の中、守られているような心地になって……
私は、そのキスの甘さに身を委ねたのだった…-。
おわり。
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