カノト「〇〇ー、どこー! 返事してー」
〇〇「カノトさん……?」
森で崖下に落ちて震えていると、カノトさんの声が聞こえてきた。
〇〇「ここですっ! カノトさん!」
カノト「〇〇っ」
すぐに崖上からカノトさんが顔を覗かせてくれる。
私を心配そうに見つめる彼の顔を見ると、安堵で目頭が熱くなった。
カノト「大丈夫? 立てる?」
〇〇「は、はい」
私はよろめきながらも立ち上がると、カノトさんを見上げた。
森の闇を背負い、あまり明かりもないはずなのに、カノトさんだけが光り輝いているように見える。
カノト「手、伸ばして。引っ張り上げる」
〇〇「でも……」
(そんなことしたら、カノトさんまで崖下に落ちちゃうんじゃ……)
カノト「大丈夫。はい」
長い腕を伸ばすカノトさんの手に、恐る恐る自分の手を重ねた。
カノト「崖に足、かけて」
〇〇「こうですか?」
なんとか足がかりを作った途端、力強く握り締められていた手が上へと一気に引き上げられた。
〇〇「あっ」
気づくと、もう私の体は崖の上にあって、カノトさんに受け止められている。
着物越しに感じるカノトさんの腕は力強く頼りがいがあって……
(見た目は女の子みたいに可憐なのに……やっぱり男の子なんだ……)
〇〇「ありがとうございます」
お礼を言いながら、ほっと息を吐くと……
カノトさんが、すっかり冷えきった私の体を、もっと強く抱きしめた。
カノト「ごめん」
耳元に、小さな声が届く。
カノト「僕を探して、ああなった? ごめん」
〇〇「いえ。滑ったのは私の不注意ですし……」
カノト「僕、〇〇に花を渡したかった。困った顔してたから、笑ってほしかった」
(そうだったんだ……)
カノト「……こんなことになるなら、もう勝手にいなくなったりしない。 いなくなって、ごめんなさい」
〇〇「とても、とても心配しました……」
あの時の気持ちを思い出すだけで、また胸が痛んだ。
カノト「約束する」
そうして私から体を離すと、急にもじもじとしだして……
カノト「これ……」
ポケットから取り出したのは、少し萎れてしまった、瑠璃色の美しい小さな花だった。
カノト「さっきまで、手に持ってた。でも助けるのに夢中で」
(ここまで一生懸命持ってきてくれたんだ……)
〇〇「ありがとう……」
これ以上花の形を変えてしまわないよう、慎重に受け取った。
その間もカノトさんは、しゅんとしてしまっている。
(全部私の為に行動してくれたんだ……嬉しい)
私の胸に、温かな灯がともる。
けれどなんだか気恥ずかしくて、私はただじっと手の中にある瑠璃色の花を見つめていた…―。
<<太陽6話||太陽最終話>>