太陽7話 森へ行った理由

カノト「〇〇ー、どこー! 返事してー」

〇〇「カノトさん……?」

森で崖下に落ちて震えていると、カノトさんの声が聞こえてきた。

〇〇「ここですっ! カノトさん!」

カノト「〇〇っ」

すぐに崖上からカノトさんが顔を覗かせてくれる。

私を心配そうに見つめる彼の顔を見ると、安堵で目頭が熱くなった。

カノト「大丈夫? 立てる?」

〇〇「は、はい」

私はよろめきながらも立ち上がると、カノトさんを見上げた。

森の闇を背負い、あまり明かりもないはずなのに、カノトさんだけが光り輝いているように見える。

カノト「手、伸ばして。引っ張り上げる」

〇〇「でも……」

(そんなことしたら、カノトさんまで崖下に落ちちゃうんじゃ……)

カノト「大丈夫。はい」

長い腕を伸ばすカノトさんの手に、恐る恐る自分の手を重ねた。

カノト「崖に足、かけて」

〇〇「こうですか?」

なんとか足がかりを作った途端、力強く握り締められていた手が上へと一気に引き上げられた。

〇〇「あっ」

気づくと、もう私の体は崖の上にあって、カノトさんに受け止められている。

着物越しに感じるカノトさんの腕は力強く頼りがいがあって……

(見た目は女の子みたいに可憐なのに……やっぱり男の子なんだ……)

〇〇「ありがとうございます」

お礼を言いながら、ほっと息を吐くと……

カノトさんが、すっかり冷えきった私の体を、もっと強く抱きしめた。

カノト「ごめん」

耳元に、小さな声が届く。

カノト「僕を探して、ああなった? ごめん」

〇〇「いえ。滑ったのは私の不注意ですし……」

カノト「僕、〇〇に花を渡したかった。困った顔してたから、笑ってほしかった」

(そうだったんだ……)

カノト「……こんなことになるなら、もう勝手にいなくなったりしない。 いなくなって、ごめんなさい」

〇〇「とても、とても心配しました……」

あの時の気持ちを思い出すだけで、また胸が痛んだ。

カノト「約束する」

そうして私から体を離すと、急にもじもじとしだして……

カノト「これ……」

ポケットから取り出したのは、少し萎れてしまった、瑠璃色の美しい小さな花だった。

カノト「さっきまで、手に持ってた。でも助けるのに夢中で」

(ここまで一生懸命持ってきてくれたんだ……)

〇〇「ありがとう……」

これ以上花の形を変えてしまわないよう、慎重に受け取った。

その間もカノトさんは、しゅんとしてしまっている。

(全部私の為に行動してくれたんだ……嬉しい)

私の胸に、温かな灯がともる。

けれどなんだか気恥ずかしくて、私はただじっと手の中にある瑠璃色の花を見つめていた…―。

 

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