穏やかな昼下がりの森の中…-。
(ど、どうして……!?)
私の胸元に触れたままのカノトさんの手に、困惑してしまっていると…-。
カノト「ねえ、女の人って、どこも柔らかい?」
〇〇「……えっ」
やっと胸から彼の手が離れたけれど、動揺してうまく言葉を紡げない。
(カノトさんって、一体……)
目を瞬かせていると、カノトさんと同じような着物を着た男性が慌てて駆け寄ってきた。
??「カノト様!! ご無事……っ!」
従者と思われるその男性は、私の様子を見て全てを察したようだった。
従者「もしやカノト様が失礼を……! 申し訳ありません、〇〇様。 なにぶん、カノト様は初めて女性にお会いしたものですから」
〇〇「えっ……?」
にわかには信じられなくて、小さく声をあげる。
カノト「きみ、女性……母さんと、違う……」
従者「酉の一族は男系でございまして、奥様を亡くした旦那様はカノト様をそれはもう可愛がられ。 城の外に出さずに、ずっと城内でお育てになられ……今に至るのでございます。 ですので、世間知らずと言いますか……本当に申し訳ありません」
ちらりとカノトさんを見ると、にこにことした邪気の無い笑顔が向けられた。
(本当なんだ……)
従者「助けて頂いたお礼に、我が国へと招待いたしたいのでございますが、お越しいただけますか?」
〇〇「はい。よろしければ……」
従者「では改めまして使者より、ご連絡いたします」
カノト「絶対、来て」
カノトさんがキラキラ輝く笑みを浮かべて誘ってくる。
(びっくりしたけど……こんなふうに真っ直ぐに接してもらえると、嬉しいな)
突然の出来事にまだ胸は小さく鳴っていたけれど、私は快く頷いたのだった…-。
…
……
それから数日後、私は正式な使者の招待を受け、こよみの国・九曜の街へと向かった。
カノト「〇〇……」
廊下まで迎えに出てきてくれたカノトさんは、前に会った時と少し様子が違っていた。
〇〇「お久しぶりです。カノトさん」
カノト「う……うん」
最初に会った時のような大胆な行動はなく……
今はかくれんぼをしている子どものように、従者さんの後ろに隠れもじもじとこちらをうかがっている。
(どうしたんだろう……?)
カノト「この間、あの……ごめんなさい。触っちゃいけないって聞いた。 話に聞いた母さん。きみに似てる……母さんと思った」
(ああ……それで恥ずかしがってるんだ。可愛いな)
反省するけなげな様子に私は口元を綻ばせた。
〇〇「大丈夫、最初は驚いたけれど、もう気にしていません」
私の言葉にカノトさんの瞳が、ぱあっと明るくなる。
〇〇「今日は招待してくれて、ありがとうございます」
カノト「きみ、いい人……もっと、話したい。元気、出る」
ひょこっと、ようやく従者さんの後ろから出てきてくれて……
(カノトさんって……女の人と話したことがないんだよね)
ほっとしたのも束の間、そのことを思い出して私の方が少し緊張してしまう。
カノト「ねえ、お話しよ?」
〇〇「……はい。じゃあ……」
(……どんな話をすればいいのかな)
〇〇「動物は好きですか?」
カノト「うん、好き。怖いのは苦手だけど」
〇〇「それは、私もです」
カノト「そうなったら、僕が助ける」
〇〇「ありがとうございます」
長いまつ毛を震わせるようにして、カノトさんは輝く笑みを浮かべた。
彼の表情の一つ一つは切り取られた絵のように美しく、目を奪われてしまう。
(本当に綺麗……)
その後も話をしていると……
急に、私の腕にカノトさんが柔らかな髪を揺らしながら飛びついてきた。
〇〇「……っ!」
ふわりと甘い、お菓子みたいな匂いが鼻をくすぐる。
カノト「きみ、好き」
小鳥がさえずるように、カノトさんが嬉しそうにつぶやく。
思わず頭を撫でそうになって、手を引っ込めた。
(失礼……かな? でも、撫でたくなるくらい可愛い……まるで雛鳥みたい)
カノトさんはふわりと髪の毛を揺らしながら、濁りのない綺麗な瞳で私をじっと見つめてくる。
真っ直ぐな好意の言葉と無邪気な触れ合いに、私の心は温かくなった…-。
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