ダンスパーティを十分楽しんだ私とロルフ君は、夜が更ける前にまだ人々の熱気であふれる町を後にした。
(すごく楽しかったな……なんだか、このまま寝ちゃうのがもったいないくらい)
特別な夜の余韻に、浸っていると……
ロルフ「あの……○○ちゃん……」
部屋の前まで送ってくれたロルフ君が、ためらいがちに私を引き留めた。
○○「どうしたの?」
ロルフ「このまま寝ちゃうのは、なんだかもったいない気がして……。少し、おしゃべりしていってもいいですか……?」
懇願するように見上げてくるロルフ君が可愛くて……
○○「私も、同じこと考えてたんだ」
ロルフ「わ……嬉しいです……!」
私は微笑みながら頷き返した…-。
ロトリアの町にまだ流れ続ける音楽が、この部屋の中にもかすかに届く。
私とロルフ君はソファーに座って温かい紅茶を飲みながら、パーティの余韻を味わった。
ロルフ「……この衣装を初めて見たときはどうしようって思ったけれど……でもやっぱり、悪魔にしてよかったです……」
○○「国王様、褒めてくれたね」
ロルフ「はい。とってもうれしかったです……。でもそれだけじゃなくて……。 このお洋服を着てると……いつもよりちゃっぴり勇気が出るんです……。 ○○ちゃんとダンスができるなんて……夢みたいでした……」
頬を赤らめたロルフ君が、たどたどしく伝えてくれる。
○○「私もとても嬉しかったよ」
ロルフ「○○ちゃん……手、つないでもいいですか……」
○○「う、うん……」
そろそろと伸ばされた小さな掌が、ソファーの上に置いていた私の手を包み込む。
ロルフ君の視線はうつむきがちだったけれど、時々確認するように私を見上げて…-。
(どうしよう……なんだかドキドキしてきちゃった)
ロルフ「……やっぱりこのお洋服は、すごいです……」
ポツリとつぶやいた後、ロルフ君は少し悪戯っぽい笑顔を見せてくれた…-。
ソファーに並んで座った私達の間を、幸せな静寂が流れていく。
そんな時間がしばらく続いたあと…-。
ロルフ君がカクンと頭を落とした。
ロルフ「……あれ……。 ボク、寝ちゃってたみたい……」
○○「もう遅い時間だもんね。そろそろ部屋に戻ろっか?」
けれどロルフ君は、眠たげな瞳のまま首を横に振って…-。
ロルフ「ボク……○○ちゃんと一緒に寝たいです……」
○○「え……」
(ロルフ君は可愛いけれど……でも男の子だし……)
迷う私の腕へと、ロルフ君が甘えるようにしがみついてくる。
ロルフ「一緒に寝てくれないと……いたずらしちゃうぞ……」
上目遣いに私を見上げながら、そう囁く。
ロルフ君の口からは、牙のような八重歯が覗いていた。
○○「ロルフ君……?」
八重歯のせいか、衣装のせいか、本当にロルフ君が小悪魔に見えてきて、私はドキッとした。
ロルフ「……」
(どうしよう……)
いつものロルフ君とは違う、少し大人びた……妖しさをたたえた眼差しが、私をとらえている。
○○「ロルフ君……」
けれどロルフ君のその視線が、次第にそわそわ揺れ出した。
(あれ……?)
眉を下げたロルフ君の表情が、くしゃりと崩れる。
ロルフ「○○ちゃん……ごめんなさい……いたずらはうそです……」
泣き出しそうな顔で謝る姿は、いつもの弱気で優しいロルフ君の姿だった。
ロルフ「あの……でも一緒に寝て欲しいのはほんと……」
○○「うん。じゃあ今日は一緒に寝ようか」
苦笑いしながら頷くと、ロルフ君は愛らしい顔に、花のような笑顔を咲かせた。
それから私達は、ひとつのベッドに入る。
ロルフ「おやすみなさい……○○ちゃん……」
○○「おやすみ、ロルフ君」
パーティの音楽を子守歌に、寄り添って眠る。
特別なこの夜に、ロルフ君が幸せな夢を見られますように……
そう願いながら、私も瞳を閉じたのだった…-。
おわり。