急停止したローラーコースターに、俺は呆然としていた。
(なんでこんなことに……)
後ろでは、ざわめきが大きくなっている。
(くそっ……)
(楽しんでもらいたかったはずなのに、なんでこんな…-)
皆を不安にさせてしまっていることに、情けなさと焦りを感じていると…-。
(あ……!)
〇〇が、心配そうに俺の方を振り向いた。
(……そうだ、今はそんなこと考えてる場合じゃねえ!)
(何よりも、乗客の安全が第一だ)
(それに……こいつにこんな顔させるのはナシだ!)
ジェット「……任せろ」
隣に座る〇〇の手をしっかり握ってから、安全バーのロックを外す。
ジェット「皆、大丈夫だ!」
できる限り落ち着いて、且つ大きな声で俺は叫んだ。
ジェット「すぐ右側が、非常通路になっていて、階段もある。 足元に気をつけて、非常通路に出てくれないか。 これから俺が、一人ずつ手助けをする」
不安にざわめく乗客達だが、しっかりと俺の声を聞いてくれている。
(よし、これなら大丈夫だな)
ひとまずだが、ほっとした時だった。
男の子「……僕も!」
母親「あっ……!」
安全バーを外した子どもが一人、そのままコースターから飛び出してしまった。
(ま、まずい……!)
ともすればコースから落ちそうで、一気に焦り始めてしまう。
(ちっ……! 何やって…-)
男の子「僕もヒーローになるんだ!」
その言葉に、はっと我に返る。
(ヒーロー……)
ふと〇〇の方を見ると、子どもを追いかけようとしていた。
ジェット「俺が行く。だからお前は、母親を支えてやってくれ」
〇〇「は、はい!」
彼女を手で制し、すぐに俺は子どもの元へと向かった…-。
無事に子どもを助け、乗客を全員避難させた後…-。
(やっちまった……)
未だ、コース上で止まったままのローラーコースターを見上げる。
(誰も怪我がなかったのは、よかったけど……)
隣にたたずむ〇〇を見ていると、やはり悔しい気持ちが湧き上がってくる。
(……本当は、こいつに一番楽しんでもらいたかったのに)
(怖い目にあわせちまって……ヒーロー失格だな)
そんなことを思い、深いため息を一つ吐くと……
〇〇「ジェットさん、お疲れ様です」
〇〇が、明るい声でそう言ってくれた。
むず痒いような申し訳ないような……複雑な気持ちになる。
ジェット「いや……お前にも、すげー怖い思いさせちまったよな」
なんとか笑顔を作ろうとするけれど、上手くできずうつむいてしまう。
でも、〇〇はそんな俺に優しく笑いかけてくれる。
〇〇「私は大丈夫です。ジェットさんが一緒でしたから」
ジェット「〇〇……」
〇〇「ジェットさん、本当にヒーローみたいで、格好よかったです」
(ヒーローって……!)
ドキリと、柄にもなく胸が大きな音を鳴らした。
ジェット「そっか……」
(んなこと言われたら、俺……)
(あーっ、駄目だ。すっげー恥ずかしい!)
照れ臭くて、視線があちこちに泳いでしまう。
(けど……)
さっき彼女が言ってくれた言葉を、反芻する。
(こいつがそう言ってくれるなら)
ゆっくりと、〇〇に視線を定めて……
ジェット「俺、お前のヒーローになれたか?」
その瞬間、じわりと胸の中が熱くなった。
〇〇「はい……。 皆を先導する姿、とても格好よかったです」
〇〇にそう言われると、隠していた思いが自然と表に出てしまう。
ジェット「そっか。よかった」
彼女に向って、問うように手を差し出す。
ジェット「もちろん、皆を助けなきゃって思ってたけどさ。 ……俺は、お前にとって一番のヒーローでいたい」
〇〇「!」
ジェット「いつだって、〇〇の危険には駆けつける。 ずっとずっと、お前の一番のヒーローでいてやるからな! だから次も、懲りずにまた付き合ってくれよ!」
〇〇「……もちろんです!」
しっかりと握り返してくれた彼女の手は、柔らかくて小さい。
(守ってやりたい)
(いや、守ってやる! 俺がずっと……)
(お前の笑った顔が、大好きだから)
そう強く心の中で思い、俺は彼女を抱き寄せたのだった…-。
おわり。