第3話 最初の乗客

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ジェット『俺、これまでいろんなスタントを経験して、いろんな映画に出たけど……。 遊園地のアトラクションにするなら、この映画が絶対にいいって思ったんだよな』

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ジェットさんの話が、私の胸を熱くする…-。

〇〇「本当に楽しみになってきました」

ジェット「じゃあ、プレオープン最初の運転の乗客はお前だな」

〇〇「え……! いいんですか?」

ジェット「あったりまえだろ!」

そう言いながら、ジェットさんは照れくさそうに軽く頬を掻いた。

ジェット「俺が一番に、先頭に乗るってことになってるからさ。 〇〇とは、俺と一緒に特別に一番乗りだ。どうだ?」

(特別……すごく嬉しい)

〇〇「ありがとうございます! あ、映画もちゃんと見て…-」

その時…-。

〇〇「!」

ちょうど、試運転の誰も乗っていないコースターがものすごい速さで駆け抜けて行くのが見えた。

(すごいスピード……)

〇〇「ちょっと怖そうだけど……第一号として頑張ります」

ジェット「ハイスピードコースターだからな! ま、意気込み充分か。ありがてえ。 よし! じゃあプレオープンまでまだ少しあるから、パーク内でも回ろうぜ」

〇〇「いいんですか?」

ジェット「ああ。せっかくだから、他も見て回りたいだろ? 行くぞ」

〇〇「あ……」

ジェットさんの逞しい腕が、ごく自然に私に差し出される。

(気さくだけど……こういうところは王子様らしいな)

そっと手を腕に通すと、胸の鼓動が速くなってしまうのだった…-。

……

ジェット「プレオープンだからな。まだクローズにしてるアトラクションもあるんだ」

二人でパーク内を回りながら、ジェットさんがいろいろと教えてくれる。

〇〇「わぁ……かわいいマスコットも立ってますね!」

ジェット「ああ。ぱんだちゃん……だったっけな。万里のアトラクションに出るって言ってたな。 お前、やっぱあーいうのが好きなのか?」

ジェットさんが、私の顔をうかがうように見てくる。

〇〇「好き……そうですね、かわいいなって思って」

ジェット「ふーん、そうか」

〇〇「ジェットさん?」

ジェット「ちょっと待ってろ」

すっと私から離れ、どこかへ駆け出したかと思えば……

ジェット「待たせたな!」

すぐに、何かを持って戻ってきた。

ジェット「ほら、ぱんだちゃん? の焼き印が入ったアイス最中」

〇〇「わ……かわいい。それにおいしそう! ありがとうございます、ジェットさん!」

あまりにも愛らしいぱんだちゃんの印に、大きな声で反応してしまうと……

ジェット「……!」

ジェットさんはほんのりと頬を染め、口元に手をあてていた。

ジェット「……そういう顔すんの、反則だろ……」

〇〇「え?」

ぼそりとつぶやかれた言葉が聞き取れなくて、聞き返すと……

ジェット「や……その、かわいい……」

ジェットさんの頬が、ますます赤くなってしまった。

〇〇「あの…-」

ジェット「っ、なっ、なんでもねーよ! 次だ! 次行くぞ!」

〇〇「あっ……はい!」

少しだけ乱暴に、私の手が引かれる。

(ジェットさん……?)

触れ合ったところが、なぜだかとても熱いと感じた…-。

……

次に、私達がやって来た場所は……

〇〇「テーマパークの中にこんなアトラクションもあるんですね」

パーク内でそこだけ緑に囲まれた、立派なフィールドアスレチックが目の前に広がっている。

ジェット「だよな。俺も、すげーいいって思ってさ」

〇〇「それに、ジェットさんが好きそうです」

ジェット「……だな!」

ジェットさんが、ニッと快活な笑みを浮かべる。

ジェット「じゃあ、一足先に挑戦させてもらうか!」

〇〇「え…-」

……

そして…-。

ジェット「やっぱ、体動かすと気持ちいいな!」

複雑な造りのアスレチックを、ジェットさんはいとも簡単によじ登っていく。

〇〇「き、気をつけてくださいね」

あまりにも速いスピードで進むジェットさんが心配で、胸がドキドキしてしまう。

ジェット「俺を誰だと思ってんだよ」

逞しい腕を器用に動かし、ひょいと、低い位置まで下りてくると……

ジェット「ほら、お前も来いよ」

〇〇「え…―」

ジェット「その服装でも、ここらまでだったら大丈夫だろ」

〇〇「……っ」

差し出された手を取ると、ジェットさんの逞しい腕にしっかりと体を支えられた。

(ジェットさん、やっぱりすごいな)

その力強さを感じて、いろんな意味でドキドキしてしまう。

〇〇「あ、ありがとうございます」

頬が火照るのを感じながら、小さな声でお礼を言うと……

ジェット「おう、転ぶなよ」

明るい声が耳元をくすぐった。

(この体で、危険なスタントをいくつもこなしてきたんだ……)

ところどころに傷がある鍛えられた体全部が、彼の誇りであるように思えた…-。

 

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