聖剣と聖盾をジークさんと一緒に見に行く約束をした私は、競技会の小休止に、彼とアヴァロン城を訪れていた。
〇〇「あの人だかりはなんでしょうか?」
回路の先に見える大広間に、何やら人垣ができている。
ジーク「あれは……どうやらアヴァロンの二人の王子達のようですね。 競技会の行われる間は、大規模なモンスター討伐遠征はないと聞いています」
そう語り、ジークさんは太陽の昇る空を回路から眺める。
ジーク「ちょうど正午あたりですから、お二人の受け継ぐ聖剣と聖盾のお披露目が始まったのでしょう」
〇〇「それで、あんなに人が」
人垣の方へ進めば、集まった人々の声が漏れ聞こえてきた。
観客1「ああ、なんて素晴らしい輝きなんだろう!」
観客2「本当に素敵な宝剣ですこと。それにお二人の王子も凛々しくて……」
賞賛の声が聞こえる中、ジークさんが私に手を差し出した。
ジーク「プリンセス、私達も参りましょう」
(ジークさんって、すごく自然に私をエスコートしてくれる)
(あまりに自然すぎるから、それが当然のように思えてくるけど……)
〇〇「はい、ジークさん」
私は彼ににっこりと笑いかけてから、やがてその手に自分の手を重ねた。
ジーク「どういたしましたか、プリンセス?」
〇〇「いいえ、なんでもありません、行きましょう」
ジーク「はい、仰せのままに」
人々の列の後ろにつくと、やがて私達の番がやってきた。
〇〇「……! なんて綺麗……」
ジーク「ええ、本当に……」
二人の王子が持つ伝説の武具は、剣も盾も神々しい輝きを放っていた。
見ているとその美しさと神秘さに、呑み込まれてしまいそうになる。
ジーク「……」
(ジークさん、あんなにかしこまって……)
神聖なる武具を敬ってか、彼は胸元に手を当てて、敬意の礼を取っていた。
その眼差しは、その場にいる誰よりも真剣に見える。
――その時だった。
闘技場の方から、地響きのような轟音が聞こえ、足元がかすかに揺れた気がした。
〇〇「っ!?」
ジーク「今のは?」
やにわにその場に集まった人々が騒ぎ出し、右往左往し始める。
〇〇「あっ……」
混乱の中、誰かに背中を強く押されて倒れかけてしまう。
ジーク「危ないっ、プリンセス!」
力強い腕が、私をしっかりと受け止めてくれた。
ジーク「お怪我はありませんでしたか?」
〇〇「あ、ジーク……さん」
周りの人達から私を守るように抱き寄せ、ジークさんは私を見下ろす。
突然のことに、私はしばらくその視線を受け止めていたけれど……
彼との距離が近くて、頬が熱くなった。
(いけない、今は……)
ふと視線を彼から広間に移せば…―。
近衛兵団隊長「大変です、王子! 闘技場で問題が……」
その伝令を聞いて、二人の王子達は近衛兵に指示を飛ばして、闘技場の方へ駆け出していく。
近衛兵1「ご観覧の皆様は、安全が確保されるまでこの場で待機ください!」
近衛兵2「この場は絶対に安全です! どうか冷静な行動を!」
近衛兵団の素早い対応で、混乱する人々は広間の中央にまとめられた。
〇〇「一体、この騒ぎは?」
ジーク「…………」
ジークさんの険しい顔を見て、私は…-。
(怖い……何が起こったんだろう?)
無意識のうちに、私はジークさんの腕に縋りついていた。
ジーク「大丈夫です、プリンセスには私がついております」
不安に震える肩を、彼の大きな手が支えてくれる。
大地が揺れるほどの地響きが、すぐそこまで迫っているような気がした…-。