二人分のお菓子を積み上げてできた山を見て、ロルフ君がうっとりとした顔で、頬に両手を当てる。
ロルフ「……こんなにいっぱい……お野菜やお魚を食べなくても、これなら大丈夫です……」
お菓子の前にペタリと座り込んだロルフ君が私に振り返り、にっこりと笑う。
(良かった……女の子と間違えられて、元気がなかったみたいだったけど)
○○「あ、見て。 ロルフ君が好きなイチゴ味のチョコがあるよ」
ロルフ「食べたいです……」
ロルフ君が私のことを信じきった顔で、あーんと口を開ける。
(やっぱり、こういうのはドキドキしちゃうな……)
ロルフ君の隣に座った私は包みを解き、小さな口の中にチョコを落とした。
ロルフ「おいしい……しあわせです……」
○○「城下町に遊びに行ってよかったね」
ロルフ「はい……あ、でも……そういえば……ボク女の子に間違われたんでした……」
○○「ロ、ロルフ君、ほら、これもイチゴ味の…-」
慌てて気を逸らそうとしてみたけれど、ロルフ君は唇を噛みしめ、首を横に振った。
ロルフ「○○ちゃんにも、ボクは女の子に見えますか……」
○○「ううん、それはないけれど」
ロルフ「よかったです……」
ほんの少し、ロルフ君の強ばっていた表情が柔らかくなる。
ロルフ「……ボクは、お母さまのような優しい人になりたいです。 それにかわいいお洋服も好きです……。 だけど女の子になりたいわけじゃなくて……。 だって女の子じゃ……○○ちゃんを……に……できないから……」
○○「え……?」
(何が……できないって?)
首を傾げた私のことを、ロルフ君がじっと見つめてくる。
ロルフ「○○ちゃん、ボク少しだけ、背が伸びたんです……」
○○「うん、そうだね。城下町を歩いているとき気づいたよ」
ロルフ「いまはまだ○○ちゃんより、ボクのほうが小さいけれど……」
そう言いながら立ち上がったロルフ君が、本棚の前から踏み台を運んでくる。
○○「ロルフ君? どうしたの?」
ロルフ「○○ちゃん、こっちに来てください……」
手を引かれ、踏み台の前に移動する。
ロルフ君はそれを見届けてから、台の上にのぼった。
(あ……ロルフ君の目線のほうが高い……)
見慣れない角度で、至近距離から見下ろされ、心臓がトクンと跳ねた。
まるでロルフ君が突然、成長してしまったような錯覚を覚える。
ロルフ「ボク、○○ちゃんに好きになってもらえるよう、優しい人になるから……ボクの身長がこのぐらいになったら……ボクのお嫁さんになってください」
驚いて瞬きを繰り返す私の肩に両手をつくと、ロルフ君が身を屈めて…-。
思わず目を閉じると、柔らかい唇が私のおでこにそっと触れた。
ロルフ「ただ背が伸びるまで、ちょっと時間がかかっちゃうかもしれないです……。 ○○ちゃん、待っててくれますか……」
(ロルフ君……)
(ずっと可愛いって思ってたのに)
けれど確かに、私の頬はいま熱くなっている。
ロルフ「……お返事……聞かせてください……」
大きな瞳が不安そうに揺れながら、問いかけてくる。
その瞳の魔法にかけられたように、私は自然と頷き返したのだった…-。
おわり。