ついに迎えた、感謝祭の日…-。
ゴーシュ「今日の風、いったい何……!?」
ゴーシュくんが不機嫌につぶやくのも、そのはず……
朝から吹く強い風のせいで、エッグレースの走者は皆一様に卵を落としてしまっていた。
(レースは一時中断ということだけど、このまま風が吹き続けたら……?)
不規則に吹きつける強い風が相手では、まともなエッグレースは到底できそうにない。
すると……
ゴーシュ「仕方ないな。レースで魔法を使うのは問題だけど……。 こういうことなら、問題ないよね」
〇〇「え……?」
ゴーシュくんが目を閉じて魔法の詠唱を始めた。
(何をするの……?)
疑問に思っていると、詠唱を終えた彼の目が開く。
そして……
ゴーシュ「風よ、静まれ……!」
空を見上げて、パチンと指を鳴らす。
その途端、強い風はゆっくりと凪いでいって…-。
参加者1「風が静まったぞ……!」
参加者2「ゴーシュ様のおかげだ……!」
ゴーシュ「ま、ざっとこんなもんじゃない?」
喜び合う人々を見つめるゴーシュくんが、少し顎を上向かせて微笑む。
…
……
エッグレースは無事に再開され、いよいよ迎えた決勝戦…-。
司会者「それでは……用意、スタート!」
いっせいに走り出す走者の中には、見事決勝まで勝ち残ったゴーシュくんの姿もあった。
ゴーシュ「っ……」
(頑張って、ゴーシュくん……!)
多くの声援に包まれる中、ゴーシュくんが駆け抜けていく。
けれど…-。
参加者3「わっ!!」
ゴーシュ「……っ!」
再び強い風が吹きつけ、参加者達がいっせいにバランスを崩してしまいそうになる。
(大変……!)
ゴーシュ「……っ!」
ゴーシュくんが、瞬時に何かをつぶやきながら右手を上げた。
すると…-。
(風が……)
参加者4「っと……」
風が向きを変え、バランスを崩しかけていた人々が大勢を整える。
(よかった……)
ほっと息を吐いて、ゴーシュくんの方に視線を戻すと……
〇〇「ゴ、ゴーシュくん……!?」
人々が体勢を立て直す中、ゴーシュくんはゴールのすぐ近くまで来ていた。
ゴーシュ「絶対に優勝は譲れない……!」
吹いた風に乗るようになめらかに、ゴーシュくんはゴールへと向かい……
司会者「ゴーール! 優勝は、ゴーシュ王子です!!」
〇〇「っ……!」
これまでで一番大きな歓声が会場にわき起こり、皆が手を叩いて喜ぶ。
(ゴーシュくん、本当に……)
宣言通り優勝したゴーシュくんはその足で表彰台へと向かう。
彼の満足そうな清々しい笑顔は、穏やかな日差しの中で魅力的に輝いていた…-。
…
……
多くの笑顔をもたらした感謝祭が終わり、街に夜の帳が下りた頃……
(皆、すごく楽しそう……)
ゴーシュくんが『頑張った皆にご褒美だよ』と言ってかけた魔法により、街の人々は風に乗って、星々が煌めく夜空を楽しそうに散歩していた。
すると……
ゴーシュ「ね? ちゃんとおれ、優勝したでしょ」
いつの間にか隣にやって来たゴーシュくんが、私の顔を覗き込む。
ゴーシュ「あっ。先に言っておくけど、ズルはしてないからね! 確かにあの時、追い風になっちゃったけど、あれはたまたまで…-」
〇〇「うん、わかってるよ。優勝おめでとう。 ゴーシュくん、とっても素敵だったよ」
ゴーシュ「〇〇……」
ゴーシュくんはニヤリと笑って、私に一歩近づく。
そして……
〇〇「……!」
ゴーシュくんに、ぐっと体を引き寄せられ……
密着する体に、激しく鼓動が跳ね上がる。
ゴーシュ「おれのこと、褒めてくれるんだ?」
〇〇「そ、それはもちろんだよ。だって…-」
ゴーシュ「ねえ、優勝賞品のこと、忘れてないよね? 賞品はあんたの、キス……でしょ?」
〇〇「っ……」
(どうしよう……すごくどきどきして……)
普段より大人びた艶っぽい瞳で、じっと見つめられ……
静まりそうにない鼓動を持ち余しながら、すぐ近くにあるゴーシュくんの顔を見つめ返す。
ゴーシュ「忘れてるなんて言わせないよ? おれ、そのためにレースに勝ったんだし……。 あんただけは、絶対に……譲れない……」
ゴーシュくんの指先が、私の耳に触れる。
大人とも子どもとも言えない少しだけ硬いその手からは、心なしかいつもより熱い体温が伝わってきて……
ゴーシュ「キス、してくれるね?」
目の前のゴーシュくんにすっかり魅了されてしまった私は……
気づけば彼へと、唇を寄せていたのだった…-。
おわり。