エッグレースまで、残り数日となったある日…-。
レース場の準備はすでに整い、会場では練習をする人々の姿が見られるようになっていた。
(皆、楽しみにしてるんだな)
(でも、賞品が私のキスっていうのはやっぱり……)
(もっと皆が喜ぶようなものがあると思うんだけどな)
そんなことを考えていると…-。
ゴーシュ「……」
ゴーシュくんが、じっと私を見ていることに気がついた。
目が合うと、なんだか難しい顔をして近寄ってくる。
○○「ゴーシュくん……?」
ゴーシュ「……そんなに、迷惑だった?」
○○「え?」
ゴーシュ「あの賞品のこと。あれからあんた、なんか……静かになったよね」
(ゴーシュくん……気づいてたんだ)
賞品を思いついた時の自信満々な表情とは一変、今の彼はとても不安そうだった。
○○「……キスが賞品でいいのかなって」
ゴーシュ「やっぱり……嫌なんだ。おれにキスするの」
○○「そういうわけじゃないよ……!」
悲しげにつぶやくゴーシュくんに、思わずそう答える。
すると……
ゴーシュ「ふーん……」
○○「え? ……あっ!」
しまったと思った時にはもう遅く、ゴーシュくんは意地悪な笑みを浮かべている。
けれどそれも束の間、すぐに真剣な表情へと変わり……
ゴーシュ「賞品は……」
○○「……? ゴーシュくん?」
ゴーシュ「しょ、賞品はおれがもらうって決まってるんだ……!」
ゴーシュくんが、今にも裏返りそうな声で叫ぶ。
ゴーシュ「おれが、言い出したんだから、おれが優勝するに決まってる。 エッグレースなら、得意だし……!」
○○「えっ? そうなの?」
ゴーシュ「う、うん。おれはなんだって得意だからね! ……初めてだけど」
○○「……!」
強がりながらも本当のことを言うゴーシュくんがかわいらしく、少し気持ちが楽になった私は……
○○「ゴーシュくんのこと、信じてるね」
ゴーシュ「……! うん、任せて!」
ゴーシュくんは、強い眼差しを向けて頷いた。
ゴーシュ「でもよく考えたら、言葉で安心しろって言うだけじゃ無責任かもね。 だから、見てて。今から安心させてあげる」
そう言って、スプーンに卵を乗せて意気揚々とコースを駆け出すゴーシュくんだったものの……
ゴーシュ「わぁっ……!」
○○「あっ……」
スプーンから転がり落ちた卵が、地面に落ちて割れてしまう。
ゴーシュ「な、何この卵! どうしておれの言うことを聞かないんだよ……! くそっ、もう一度だ!」
ゴーシュくんがパチンと指を鳴らすと、新しい卵がふわりと浮いた。
けれどその時、私達の様子を見守っていた子ども達がやってきて……
女の子1「ゴーシュさま、苦手なの?」
男の子1「じゃあ賞品は僕がもらえるかも」
男の子2「俺だってすごいぞ! さっきは、ここからゴールまであっという間だったんだから!」
ゴーシュ「う、うるさい! 賞品はおれのものだ!」
ムキになるゴーシュくんに、子ども達が笑い声を上げる。
(大丈夫かな……)
ゴーシュくんの様子に、私は少し不安を覚えてしまったのだった…-。