ロルフ君の着る衣装を決めるべく、まず私達は国王様を尋ねることにした…-。
国王様は城の大広間で、兵士達の訓練を見て回っているところだった。
(すごい……)
軍服の兵士達がきっちりと列をなし、並んでいる。
空気はピンと張り詰め、遠くから見ているのに緊張してしまう。
ロルフ「……」
ロルフ君は、難しそうな顔で国王様の様子を見守っている。
ロルフ「兵隊さんの訓練は……怖くて。 いつもボク、近づかないようにしてるんです……」
○○「そうなんだ……でも、ちょっとわかるよ」
ロルフ「でも、お父さまが……」
○○「国王様がどうしたの?」
ロルフ君に問いかけたとき…-。
国王「そこ! 動きが乱れているぞ!」
二人「!!」
部隊の一列を指差しながら、国王様が怒声を上げる。
入り口から広間を覗いていた私とロルフ君は、二人そろってビクッと肩を揺らした。
ロルフ「お父さまが、誰よりも一番怖いと思うんです……。 剣のお稽古をしないといけないって、でもボクいつも逃げてばかりで……」
私の耳元に口を寄せ、ロルフ君がヒソヒソと囁く。
○○「確かに、すごい迫力だね」
ロルフ「お顔も悪魔みたいです……でも……」
広間の方へ向き直ったロルフ君につられ、私も顔を上げる。
国王「有事のとき成果を上げられるのは、日頃の訓練を怠らぬ者なのだ。心して取り組め」
兵士達「はっ!」
兵士達は、先ほどより溌刺とした表情で返事を返す。
彼らが国王様を慕っていることが、自然と伝わってきた。
ロルフ「……怖いけれど、お父さまはやっぱりすごいなって思います……。 心が強くて、皆から尊敬されていて……」
○○「国王様は、ロルフ君の憧れなんだね」
ロルフ「はい……!」
ロルフ君がはにかみながら、首を縦に振る。
(国王様みたいになりたい、か……威厳のある衣装とか?)
国王「そこ!! 何度言ったらわかるんだ! 隊列が乱れている!」
二人「!!」
再度響いた怒声に、またも体を震わせる。
ロルフ「……○○ちゃん、……もう行きましょう」
○○「じゃあ、王妃様に会いに行こうか」
私達はそっと広間の扉を閉め、今度は王妃様の部屋へと向かった…-。
王妃様は以前にお会いしたときと変わらぬ微笑みと共に、私達を迎え入れてくれた。
(綺麗……黒をとても優雅に着こなしていて)
王妃「お久しぶりですね、○○姫。 貴女がいらっしゃるのを、ロルフと共にとても楽しみにしていました。 姫がこの子と仲良くしてくださって、本当に感謝しています。 人見知りな子なのですが……姫と会うときは、とても嬉しそうにしていて」
王妃様の言葉を聞き、ロルフ君が恥ずかしそうにうつむく。
王妃「これからもロルフを、よろしくお願いしますね」
○○「はい。王妃様」
小鳥がさえずるように優しい口調で、王妃様はにっこりと笑みを浮かべた。
(本当に、ロルフ君のことを大切に思っているんだ)
(優しい方……)
王妃様の部屋を出た私達は、中庭のベンチに腰を下ろした。
さきほどよりも太陽が低くなり、柔らかに庭を照らしている。
ロルフ「○○ちゃんは……お父さまとお母さま、どっちがいいと思いますか……?」
○○「うーん……。 王妃様の優しい雰囲気が、ロルフ君に合ってると思うな」
ロルフ「○○ちゃんは、優しい人が好きですか……?」
ロルフ君は、とても真剣な顔で尋ねてくる。
私は少し戸惑いながらも、頷き返した。
ロルフ「そうですか……わかりました……。 好きになってもらえるよう、頑張らなくちゃ……」
ロルフ君は、独り言のようにつぶやいた。
○○「ロルフ君?」
ロルフ「あ、……な、なんでもないです……。 えっと、次は何をしたらいいですか……」
○○「そうだね。今度は二人のイメージにあう、仮装用のキャラクターを探そうか。 たとえば物語の登場人物とか……」
ロルフ「……図書室で探すのはどうですか?」
○○「うん、いいアイデアだと思う」
ロルフ「よかったです……!」
私の返事を聞いて、ロルフ君が嬉しそうに立ち上がる。
ロルフ「行きましょう、○○ちゃん」
ロルフ君の小さな手が、私の手を取る。
(褒められて嬉しかったのかな……可愛い)
手をぎゅっと握り返して、私達は図書室へと向かった…-。