美しく輝く月を、大きな翼の鳥が横切っていく…-。
次の歌を探す旅に出ることにした私達は、星を頼りに深い森の中を歩いていた。
ビッキー「次の村は……こっちかな」
ケロタ「貸してみろ! オマエが一度でも正しい方向に行ったことがあったか」
ケロタがビッキーさんの手から地図をひったくる。
ケロタ「……合ってる」
ビッキー「ケロタは世話好きだな~」
ケロタ「誰のせいだ!」
ビッキー「お、喧嘩する?」
ケロタ「オマエ……随分偉そうな口聞くようになったもんだな!!」
軽快に言い合いをする二人を見つめ、私は思わず笑ってしまう。
(ビッキーさんもケロタも楽しそう)
(でも……このままじゃ、いつまでたっても進めない)
(何か、話題を変えないと)
(あ……)
〇〇「綺麗なお花」
崖の上の、高い場所にある花を指差す。
ケロタ「なんだ、あんなモンが欲しいのか。よし、ワシがひとっ跳びして…-」
ビッキー「いいよ、ケロタ。僕が。 『取って』って言って」
〇〇「え、でも……すごく高いところにありますし、暗いから危ないです……」
ビッキーさんは、腕を組んで私の瞳を覗き込んだ。
(もしかして……)
―――――
〇〇『頼ってくれる人がいるって、すごく嬉しいです』
―――――
〇〇「……取って、ください」
小さな声でそう言ってみると、ビッキーさんは嬉しそうに笑う。
ビッキー「……ほんとだ。頼られるって、嬉しい」
ビッキーさんはそう言うと、大きくジャンプし、花を取ってくれた。
ビッキー「はい」
〇〇「ありがとうございます」
彼の笑顔が嬉しくて、私まで笑顔になる。
花の香りを嗅ごうとした、その時……
ビッキー「〇〇……」
ビッキーさんが、私の髪にそっと唇を落とした。
〇〇「……っ!」
ケロタ「おおお……」
顔を上げると、ビッキーさんが自分でも驚いたような顔で私を見つめている。
ビッキー「あれ? 僕……」
ビッキーさんが私の頬に触れた、その時……
〇〇「あ……!」
ビッキーさんとケロタが、まばゆい光に包まれた。
ケロタ「ビッキー! もしかして……!」
ビッキー「うん、ケロタ!」
(呪いが、解ける……!?)
笑い合ったのも束の間、私達は恐ろしい光景に息を呑んだ。
ビッキー「ケロタ!」
ケロタの姿が少しずつ透けて、夜の闇の中に溶け入っていく……
ケロタ「なんだ……そういうことか。 呪いが解けるって、ワシが消えるのか」
ビッキー「嫌だ! ケロタ……!」
ケロタ「嫌って言ってもなあ……」
ビッキーさんは必死にケロタを抱きしめる。
ケロタ「なあ……オマエ、見つけたんだな。 ありのままのオマエでいられる場所を。 ……よかったな」
ビッキー「ケロタ! 行かないで……! ケロタと、ずっと一緒にいたいんだ!」
ケロタ「……そうだな。 嬉しいよ……バカビッキー」
その言葉を最後に、まるで元からそこにいなかったかのように、ケロタは世界から消えてしまう……
ビッキー「ケロタ……!」
ビッキーさんは辺りを見渡し、ケロタの姿を必死に探していた。
〇〇「ビッキーさん……!」
崩れ落ちるように地面に膝をついたビッキーさんを、そっと抱きしめる。
ビッキー「だめだ……」
けれど彼は私の手を優しく拒み、顔を手で覆ってしまった。
ビッキー「幸せなメロディーを聴いたんだ……。 君の髪にキスをした時……僕は、知ってしまったんだ。 これ以上ないほど、幸せな音……君を想う、胸の音を……」
〇〇「……っ!」
ビッキー「僕が、恋をしたから……?ケロタは、僕のせいで……!」
(私のせいで……?)
幸福なはずの告白に、ただ胸が痛む……
〇〇「ケロタ……」
次々とこぼれ落ちる涙を止めることはできなかった。
涙を見られまいと、顔を背けた時……私は、ケロタがいた辺りにネックレスが落ちているのを見つける。
〇〇「ビッキーさん、これ……」
ビッキー「これは……?」
ネックレスを拾い上げたその時、ビッキーさんは驚いたように目を見開いた。
ビッキー「ケロタ……?」
ビッキーさんは、しばらく何も目に入らない様子で空を見上げ、やがて私をそっと抱きしめた。
(え……?)
ケロタの歌が聴こえたような気がして、私はそっと耳を澄ませる。
ビッキー「君にも聞こえる?」
何度も頷き返すと、ビッキーさんは私を抱く腕に力を込めた。
ビッキー「ケロタ……傍にいてくれるってこと? じゃあ、教えてくれないか。 僕は、どうやって生きていったらいい?」
ケロタの声は明るく歌うばかりで、答えはどこからも聞こえない。
ビッキー「……ねえ、答えてよ」
(ビッキーさん……!)
叫びのような彼の言葉に、胸がひどく痛んだ。
(どうしたらいいの……?)
―――――
〇〇『頼ってくれる人がいるってすごく嬉しいです。 そこにいていいって思わせてくれるから』
ビッキー『……ほんとだ。頼られるのって、嬉しい』
―――――
彼の笑顔が脳裏をよぎり、私は必死にそれを手繰り寄せる。
大きく息を吸い、彼の指先にそっと手を重ねた。
〇〇「ビッキーさん……私の傍にいてくれませんか?」
ビッキー「君の傍に……?」
〇〇「はい……。 一緒に、旅を続けましょう。 いろんなところを回って……ケロタと3人で」
願うような気持ちでそう言うと、ビッキーさんは静かに私に手を握る。
ビッキー「……そうだね。 ずっと、一緒だね」
〇〇「……はい」
ビッキー「ずっと……」
まばゆい月が、深い森に静かに光をさしかけている。
目を閉じると、その光の中でケロタが楽しそうに歌っていた…-。
おわり。