風がサワサワと木々の枝を揺らす…-。
ビッキーさんの寂しげな笑顔を見つめながら、私はぎゅっと拳を握った。
〇〇「ビッキーさん、やっぱり駄目ってなんですか?」
ビッキー「え……?」
〇〇「……駄目なんかじゃない。 駄目なんかじゃないですよ、ビッキーさん」
ビッキー「〇〇……?」
〇〇「ワシがいないと何もできないって文句言いながら、ケロタ嬉しそうでした」
ビッキー「……優しいね。 君にまで気を使わせて、ごめん」
心を込めて訴えたけれど、ビッキーさんはますます悲しげに微笑むばかりで……
(そうじゃないのに……)
ビッキー「ちょっと気分転換に散歩でもする?って言っても、ケロタがいる湖からは離れられないけど。 あっちに、巻貝みたいな形の木が見えたんだ。行ってみようか」
ビッキーさんは明るい声でそう言って、私に背を向けて歩き出した。
(きっと、いつもそうやって気持ちを隠してきたんだ)
その優しさに、胸がぎゅっと締めつけられる。
思わず、ビッキーさんの服の裾を引き止めた。
ビッキー「……どうしたの?」
〇〇「気遣ってくれるのも嬉しいですけど……少し寂しいと言うか」
ビッキー「え?」
〇〇「頼ってくれる人がいるって、すごく嬉しいです。 そこにいていいって思わせてくれるから。 でも……ビッキーさんは、本当に辛い時に笑うから……。 相手が無理しないかっていつも気を使うから。 辛い時は、辛いって言っていいのに……笑われると、切なくなる」
ビッキー「……」
〇〇「ケロタも、きっとそうだと思います」
気持ちが伝わるように祈りながら、真剣に彼の瞳を見つめる。
彼は静かに私の瞳を見つめ返し、やがてゆっくりと瞳を閉じた。
ビッキー「……辛い時に笑うのは、僕が臆病だからだよ」
〇〇「え……?」
ビッキー「だって、面倒くさいだろ?他人の機嫌にまで気を使うのは」
彼の声はひどく静かで、まっすぐに私の心に届く。
言い知れぬ寂しさを感じ、私は大きく首を振った。
〇〇「そうやって、突き放して……そのたびにケロタは辛かったんじゃないでしょうか」
(私だって……)
気持ちが溢れ出しそうで、ぎゅっと瞳を閉じる。
しばらくすると、ビッキーさんの指先が私の右手にそっと触れた。
ビッキー「……じゃあ、ちょっとだけ。 甘えて、いい?」
その言葉が嬉しくて、そっと頷き返す。
すると彼は私の手を少し強く引いて、小さく首を傾げた。
ビッキー「……歩けない。引っ張って」
〇〇「えっ」
ビッキー「冗談だよ」
〇〇「……!」
ビッキーさんが、見慣れた微笑みを浮かべる。
次の瞬間、彼の微笑が崩れ……泣きそうな目元を、長い指が隠した。
ビッキー「……ありがとう。 君の手は、暖かいな。 ……見ないで」
顔を覆う指の間から、照れたような表情が見える。
(これが、ビッキーさんの素顔……)
彼の前髪がサラリと風に揺れる。
胸がトクンと音を立てた…-。