午後の澄んだ陽射しの中で、歌声が煌めいている…-。
ケロタ「……さーてと」
一通り歌を歌い終えると、ケロタは満足そうに喉を鳴らした。
ケロタ「自由の身だ~!! 待ってろ美女ガエル達~!」
ケロタは、そう言うなり振り返りもせず遠ざかっていった。
(アイツ……)
軽やかに飛び跳ねるケロタを見つめ、僕は呆れたため息を吐く。
(まったく……そんなに嬉しそうにすることないだろ)
ビッキー「……ねえ、〇〇。 アイツ、離れないとかなんとか言ってなかった?」
そう言いながらも、自然と笑みがこぼれてしまう。
〇〇「はい……でも、きっとすぐに戻って来ますよ」
遠くでケロタがカエルに花を渡しているところが見える。
彼女と顔を見合わせ、思わず吹き出してしまった。
(美女ガエル、見つけた?)
(よかったね、ケロタ)
目を細めてケロタを見つめる彼女の横顔を、僕はそっと見つめる。
ビッキー「すぐに、じゃないといいんだけど」
その横顔に囁きかけると、彼女はこちらを振り返った。
〇〇「え?」
ビッキー「君に伝えたいことがあるから」
僕は彼女に指を伸ばし、その柔らかな頬に触れる。
(……ああ、ドキドキするな)
(受け入れてもらえないかもしれない)
(でも、それでも……)
(……君に、伝えたいから)
〇〇「……?」
僕は大きく息を吸い、彼女をまっすぐに見つめた。
ビッキー「……ありがとう。 君がいなければ、一生気づけないままだった。 本当は、これも言わないでおこうと思ってたんだけど……。 何事も、駄目って決めつけないで聞いてみないとわからないよね」
〇〇「あの……?」
彼女の前に跪くと、胸が大きく音を立てる。
ビッキー「僕は……ずっと、自分に自信がなかった。 僕のことなんて、誰も愛してくれない。そう思ってた」
(だって、そうだろ?)
(両親には国を追い出され……)
(行く先々で、人々に奇異の目で見られた)
(ケロタにも、嫌われてるって思ってた)
ビッキー「いつしか愛されたいと望むことをやめて……。 相手にも、自分にも、何も期待しないよう自分に言い聞かせてた。 でもね、ケロタと……君が、教えてくれたから。もう一度、自分を信じてみたくなったんだ」
(そう……ずっと聞けなかったこと……君のおかげでケロタに聞けたよ)
(それがどれだけ大きなことだったか……どれだけ感謝しているかを、君に伝えたい)
(……もしもこの気持ちを受け入れてもらえなくても)
(僕は君に忠誠を誓う)
心の底から気持ちが溢れ、僕は彼女の手に誓いの口づけを落とす。
〇〇「……っ!」
ビッキー「〇〇……好きだ」
〇〇「ビッキーさん……!」
ビッキー「僕は……もっと、君の傍にいたい。 君に愛されたい。 そのための努力を、君の隣でしたいんだ。 ……いいかな?」
彼女の答えを待つ間、永遠のような時が流れる。
(〇〇……?)
彼女が僕の手を取り笑ってくれた時……世界から音が遠ざかっていった。
〇〇「ビッキーさん?」
(それは、いいっていう返事でいいんだよね)
(僕……間違ってないよね)
〇〇「あの……?」
(ああ、夢みたいだ)
気持ちを抑えることができず、僕は彼女を抱き上げる。
〇〇「……っ」
横抱きにすると、彼女は驚いたのかそっとまつ毛を伏せた。
ビッキー「もう一回」
〇〇「え?」
真っ赤に染まった耳元に囁きかけると、彼女は困ったような顔をする。
ビッキー「もう一回、笑って」
〇〇「そんなこと言われても……」
恥ずかしそうに目を逸らす彼女を抱いたまま、くるりと回る。
彼女はそっと僕の首にしがみついた。
ビッキー「笑ってくれるまで、下ろさない」
(何度だって見たいんだ)
〇〇「そ、そんな……!」
ビッキー「……僕、はしゃぎすぎかな?」
少しだけ我に返りそう聞くと、彼女はふっと笑みを浮かべる。
〇〇「……ちょっと、だけ」
彼女の口元に花のような笑顔が広がって……僕は、なぜだか泣きそうになった。
(君に、わかるかな)
(僕が今、どれだけ幸せか)
(どれだけ君が……愛しいか)
彼女が僕の顔を覗き込む。
〇〇「ビッキーさん?」
(ねえ、ケロタ)
(僕は……幸せだ)
〇〇を、強く抱きしめる。
彼女の髪は、暖かな日向の香りがした…-。
おわり。