まばゆい光が、午後の穏やかなまどろみの中に消え入っていく…-。
(何が起こったの……?)
二人が、ハッとして顔を見合わせた。
ケロタ「……もしかすると、もしかするかな」
ビッキー「……ああ。ケロタ、行くぞ」
…
……
ビッキー「……よし」
ケロタ「いっせー……のっ!!」
その声を合図に、二人は反対方向へと走り始める。
(呪いが……?)
ケロタが見えないほど遠くへ行っても、ケロタがビッキーさんの肩に戻ることはなかった。
ケロタ「やった……やったーーーー!」
ビッキー「呪いが、解けた……?」
二人は駆けより、嬉しそうに抱き合っている。
ケロタ「でも、どうして?至福のメロディーは?」
(そういえば……)
ビッキー「……心当たりがあるかも」
ケロタ「どういうことだよ、ビッキー」
ビッキーさんは、そっと自分の胸に手をあてる。
ビッキー「僕は……ずっと、自分を孤独だと思っていたんだ」
ケロタ「なんで?嫌になるくらい一緒にいただろ」
ビッキー「君といると、楽しくて……けれど、一人でいるより、寂しかった。 だって、僕は……君が、いつかいなくなってしまうと思っていたから。 呪いがあるから一緒にいてくれるだけで、それがなくなったらもう一緒にはいられない。 そう自分に言い聞かせて……いつも、さよならの準備をしてたんだ。 いつだって、息をする度に胸が痛かった」
ケロタ「……ビッキー……」
ビッキー「でもね、〇〇が現れて、勇気をくれたんだ。 そして、ケロタ。君が僕を友達だと言ってくれた時……。 僕は、初めて孤独じゃなくなった。自分に自信が持てたんだ。 こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ。 胸が痛くない……鼓動の音が、心地いいんだ。 この鼓動の音に名前をつけるとしたら……」
ケロタ「至福のメロディー……?」
〇〇「……!」
ビッキーさんは、静かに微笑む。
けれど次の瞬間、ケロタがビッキーさんの肩に飛び乗り、頬に盛大に飛び蹴りをした。
〇〇「ケ、ケロタ!」
ケロタ「なんだ、こんなことかよ! バカビッキー!始めっからオマエがイジケたりしなければよかったんじゃねえか!」
そう言いながらも、ケロタは優しく笑っている。
ケロタ「あ~あ……集めた歌が泣くぜ……」
ケロタは、次々と歌を歌う。
ビッキー「うん。でも、楽しかったなあ……」
ビッキーさんがそれに続き、美しい歌が空に響いた。
(なんて、幸せなメロディー……)
ビッキー「ねえケロタ、ほっぺた痛いんだけど」
ケロタ「ワシの心の方が痛い」
ビッキー「なんでさ」
ケロタ「こんなバカに何年も付き合ってたかと思うとな。イタタタタタ」
ビッキー「……楽しかったくせに」
ケロタ「オマエ……言うようになったな」
歌いながら時に言い合いをする二人は本当に楽しそうで、私まで幸せな気持ちに満たされていった。
ケロタ「……さーてと」
歌が途切れると、ケロタはビッキーさんの肩から飛び降りる。
ケロタ「自由の身だ~!!待ってろ美女ガエル達~!」
ケロタはそう叫んだ後、振り返りもせず遠ざかっていった。
(行っちゃった……)
ビッキー「……ねえ、〇〇。 アイツ、離れないとかなんとか言ってなかった?」
遠ざかっていくケロタの後ろ姿を見つめ、ビッキーさんがぽつりとつぶやく。
〇〇「はい……でも、きっとすぐに戻って来ますよ」
遠くでケロタがカエルに花を渡しているところが見えて、私達は顔を見合わせて笑った。
ビッキー「すぐに、じゃないといいんだけど」
〇〇「え?」
ビッキー「君に伝えたいことがあるから」
ビッキーさんの長い指が、私の頬にそっと触れる。
〇〇「……?」
ビッキー「……ありがとう。 君がいなければ、一生気づけないままだった。 本当は、これも言わないでおこうと思ってたんだけど……。 何事も、駄目って決めつけないで聞いてみないとわからないよね」
ビッキーさんはそう言うなり、私の前に跪く。
〇〇「あの……?」
そっと私の手を取り、静かな自信を湛えた瞳で私を見つめた。
ビッキー「僕は……ずっと、自分に自信がなかった。 僕のことなんて、誰も愛してくれない。そう思ってた。 いつしか愛されたいと望むことをやめて……。 相手にも、自分にも、何も期待しないよう自分に言い聞かせてきた。 でもね、ケロタと……君が、教えてくれたから。もう一度、自分を信じてみたくなったんだ」
ビッキーさんの瞳がそっと細められ……静かに私の手の甲に唇を落とす。
〇〇「……っ」
ビッキー「〇〇……好きだ」
〇〇「ビッキーさん……!」
ビッキー「僕は……もっと、君の傍にいたい。 君に愛されたい。 そのための努力を、君の隣でしたいんだ。 ……いいかな?」
胸の音がどきどきとうるさくて……私は、返事の代わりに彼の手を取る。
(嬉しい……)
彼が嬉しそうに微笑むと、胸が甘く締めつけられる。
その胸の音を聞きながら、私はこの上ない幸せだと思った…-。
おわり。