柔らかな風が頬を撫で、そっと目を開ける。
まばゆい光の中で、誰かが私の手を握っていた。
ビッキー「○○!」
○○「ビッキーさん……?」
(私……?)
(そうだ、ケロタを追いかけて……)
看護師さんのような服を着た人が私の額に手をあて、パタパタと部屋を出ていった。
ビッキー「よかった……! だいぶ水を飲んでたから」
ビッキーさんは額に手をあて、何度も大きく息を吸った。
○○「大丈夫ですか……?」
ビッキー「……大丈夫じゃない。久しぶりに泳いでクタクタだ」
○○「ごめんなさい……助けてくれてありがとうござ…―」
突然ビッキーさんに抱きしめられ、私は言葉を見失ってしまう。
○○「あ、あの……?」
ビッキー「君って人は」
(ビッキーさん……震えてる?)
ビッキー「心臓が、止まるかと思った」
消え入りそうなその声までも震えていて、私はそっと彼の背を撫でる。
彼が私の肩に頭を預け、柔らかな髪が私の頬をくすぐった。
○○「ごめん、なさい」
ビッキー「……どうして、あんなことを?」
○○「それは……」
ー----
ビッキー『まあ、ケロタの方は、離れたくても離れられないだけなんだけどね』
ビッキー『どうせこの呪いがある限り、ケロタは嫌でも僕から離れられないんだから』
ー----
○○「……ビッキーさんが、悲しそうだったから」
ビッキー「僕が?」
○○「はい……だから、ケロタに確かめたくて」
ビッキーさんは顔を上げ、私の顔をまじまじと見つめる。
ビッキー「確かめるって?」
私は大きく息を吸い、彼の瞳をまっすぐに見つめた。
○○「ケロタは、うんざりとかいろいろ言ってたけど。 ケロタに初めて出会った時……ビッキーさんが指輪に封印されてた時……。 ケロタは、ビッキーさんを助けてって、必死に私を呼んでくれたんです。 あの時ケロタは、ビッキーさんの指輪から随分遠く離れた場所まで私を迎えに来てくれた。 本当は、指輪に封印されている間呪いは解けていて、どこにでも行けたんじゃないかな……って」
ビッキー「え……?」
○○「あの時、ケロタはそれでも自分の意思でビッキーさんの傍に戻ったんじゃないかな? だから、私……」
ビッキー「……まさか」
ビッキーさんの瞳が揺れる。
長いまつ毛に縁取られた瞳が、やがてゆっくりと窓の外を向いた。