その夜…―。
暗い森から見る夜空では、数え切れないほどの星々が瞬いている。
(なんだか、眠れない……)
ビッキーさんとケロタが眠るテントの前で灰をかぶせた小さな火に当たっていると、突然、ふわりと毛布に包まれた。
ビッキー「眠れない?」
○○「ビッキーさん、起こしてしまいましたか?」
ビッキー「しー。ケロタが起きる」
○○「すみません」
傍にあった大きな石の表面を手で払うと、ビッキーさんは私をそこに座らせてくれた。
ビッキー「……どうして一緒に来てくれたの?」
○○「え?」
ビッキー「君みたいな子、初めてだよ」
突然の言葉に、どう答えていいかわからなくなる。
ビッキー「皆、面白がりはするけど……だいたいは気味悪がって深く関わろうとはしないからさ」
○○「気味悪いなんて、そんな!」
思わず大きな声が出てしまい、慌てて口を手で塞いだ。
○○「……なんだか、お二人がとても楽しそうで、もう少し一緒にいたいなって。 この村に伝わる歌も聴いてみたかったですし」
ビッキー「……」
○○「あ、楽しそうなんてすみません……家に帰れないのは……寂しいですよね」
口ごもると、ビッキーさんは優しく笑い、私を毛布で包み直してくれた。
ビッキー「……そうかな」
○○「え?」
ビッキー「家があることが、幸せってわけじゃないと思うんだ」
(ビッキーさん……)
ビッキー「今はいつでもケロタが傍にいてくれるし。 旅をするのは、気に入ってる。 まあ、ケロタの方は、離れたくても離れられないだけなんだけどね」
ビッキーさんは、そう言うとにこやかに微笑み、満天の星空に目を向けた。
(そんなこと、ないと思うのに……)
口ぶりとは反対の悲しそうな瞳に胸が締めつけられる。
○○「どうしてそう思うんですか?」
ビッキー「どうしてって?」
○○「そんなふうに見えません」
ビッキーさんは不思議そうに首を傾げる。
○○「私、ケロタもビッキーさんも、お互いのことが大好きなんだなって思って」
ビッキー「ケロタが? それはどうかな……」
○○「少なくとも、ビッキーさんといる時のケロタはすごく楽しそうに見えます」
ビッキー「……ケロタは、優しいから。 僕が頼りないから、面倒見てくれてるんだよ」
にっこりと微笑んだビッキーさんは、やっぱりとても悲しそうに見えて……
(そんなふうに、笑わないでください……)
私はそっと胸に手をあてるのだった…―。
…
テントの中で、ケロタが小さなため息を吐く。
ビッキー「さあ、もう寝て」
少しだけ開いたテントの入り口から、ひそやかな声が聞こえていた。
ビッキー「君が寝るまで火を焚いてあげるから」
○○「でも……」
ビッキー「……じゃあ、一緒に寝る?」
○○「えっ」
ビッキー「寝られないなら、僕が寝かしつけ…―」
○○「す、すみません。おやすみなさい」
ビッキーがくすくすと笑い、○○が立ち上がる。
ビッキー「おやすみ、○○」
ケロタ「……」
○○がテントへ入ってくると、ケロタは慌てて目を閉じた…―。
…