雨露を乗せた木々の葉が、陽の光を受けてきらきらと輝く。
ビッキー「雨も上がったし、そろそろ行こうか」
○○「どこへ行くんですか?」
ケロタ「この近くの村だよ。○○も来るか?」
ビッキー「村に古くから伝わる歌が、この世のものとは思えないほど美しいって聞いたんだ」
○○「綺麗な歌……聴いてみたいです」
思わずそう言うと、ビッキーさんが優しく笑いかけてくれる。
ビッキー「じゃ、一緒に行こう」
ケロタ「よし、決まりだ! 今度こそ“至福のメロディー”だといいな~」
ビッキー「さて、村はこっちかな?」
ビッキーさんは、地図を片手に暗く恐ろしげな雰囲気の森の方を指差した。
ケロタ「……オマエ、黙ってろ。地図をよこせ。 毎度そうやって変な道を……ホラ見ろ! まるっきり反対方向じゃねーか!」
ビッキー「ははっ、そうだったか」
ケロタ「オマエ、しっかりしろよ! いつかジャングルで虎とかに食べられるぞ」
ビッキー「そう? ケロタがいるから、大丈夫だよ」
ケロタ「……ふんっ」
(やっぱり、仲良しなんだな……)
賑やかに言い合う二人の横を歩いていくと、美しい湖に行き当たる。
湖畔に小さな家々が立ち並び、人々の賑やかな声がした。
○○「綺麗な村ですね」
ビッキー「うん。湖も綺麗だし、気持ちのいいところだな」
のんびりと歩いていると、旅人が珍しいのか、村人達が集まってくる。
村人1「珍しい服だな。どこから来たんだ?」
村人2「疲れてないか? 俺の母ちゃんのスープは美味いぞ」
気さくに話しかけてくる優しそうな人々に、ビッキーさんが笑顔で答えている。
ビッキー「実は、この村に伝わる歌を聴きに来たんです。 この世のものとは思えないほど美しい歌だと聞いたんですが、どこに行けば聴けますか?」
村人3「ああ……あれは婚礼歌だからなあ。ハイハイって聴かせられるような代物じゃ…―」
ケロタ「そこをなんとか!」
ケロタがしゃべると、村の人々が静まり返る。
ケロタ「頼むよ! 遠くから来たんだぜ~」
村人1「カエルが……しゃべった?」
村人2「妖怪か!?」
人々は大きくざわめき、ケロタを取り巻いた。
ケロタ「やめろ~! おいビッキー、オマエ何笑ってんだ! 助けろ~」
村人達にツンツンとつつかれて、ケロタがビッキーさんに助けを求める。
ビッキー「ケロタはどこに行っても人気者だな。ねえ、○○」
ビッキーさんはくすくすと笑い、私に意味あり気な視線を送った。
(え……?)
(あ、もしかして)
○○「はい! ケロタ、すごいなあ~」
慌てて同意をすると、ビッキーさんが満足げに笑う。
ケロタ「……そうかなあ。じゃ、ちょっとやっちゃおうかなあ!」
ケロタは、満更でもなさそうにふんぞり返る。
ケロタ「集まって集まって! では、始めます。ケロタ劇場~! 巨人の国で出会った女のトロールの真似っ。 こんな美女を前にして、妖怪なんて失礼ねえ。 アルストリアの城で聞いたファンファーレ。 ♪♪♪ 次は美女ガエルがワシに惚れた時の声っ。 ゲエロっゲロっ」
ケロタの周りの人だかりは、どんどん大きくなっていく。
○○「ケロタ、すごい……! あんなことができるなんて!」
ビッキー「うん。ケロタにはかなわないんだ。 ケロタのおかげで、いつも楽しい」
ビッキーさんは、優しく目を細めた。
ケロタ「おいビッキー! 明日結婚式の余興の頼まれたぞ! 例の歌が聴ける!」
人垣の中から、ケロタの声がする。
ビッキー「……ね? ケロタには、かなわない」
(すごい……)
二人で顔を見合わせて笑う。
きらきらと輝く湖が、彼の後ろで優しくさざめいていた…―。