大きな葉っぱの下で、ポロポロと雨の音が響く。
とりあえず雨宿りをすることにした私達は、ビッキーさんの淹れてくれたいい香りのお茶を楽しんでいた。
ケロタ「あったまるわぁ……」
湯気の立ち上る小さな小さなカップを手に、ケロタが目を細める。
かわいらしい仕草に思わず笑みがこぼれた。
ビッキー「……びっくりしただろう?」
○○「え?」
ビッキー「ケロタのこと」
○○「びっくりしたけど、かわいいですね」
ビッキー「ケロタ、かわいいって。よかったね」
ビッキーさんは優しく目を細めた。
○○「あの、呪いって……」
ビッキー「呪いの話、したっけ?」
○○「さっきケロタが言いかけてました」
ケロタ「ま、好きで呪ってるわけじゃないんだけどな~。コイツと離れられなくて、こっちが迷惑してるくらいだ」
○○「離れられない?」
ビッキー「うん。ケロタのお母さんが、ケロタが僕から離れられないように呪いをかけたんだ」
○○「なぜ……?」
ケロタ「うちのカエル王国はビッキーの国の中にあって、昔から仲良くやってきてたんだ。 ワシのアニキとビッキーのアニキは、親友だったらしいんだけど。 3年前、ビッキーのアニキが底なし沼にはまったワシのアニキを助けようとして死んでしまってな……。 それ以来、ビッキーの国は国中からカエルを追い出そうと決めたんだ」
ビッキー「父と母の嘆きはそれは深かった……兄をひどく愛していたからね。 だからこそ、徹底的にカエルを視界から追い出そうとしたんだ。 ケロタのお兄さんは、自分を責めて自殺してしまったんだよ」
ケロタ「そうそう。それでワシのオフクロが、ワシがアニキみたいなことにならないように……って。 昔から仲良くしてやってたビッキーとワシが離れられないように、呪いをかけたんだ。 見ろよ!」
そう言うと、ケロタはぴょんぴょんと遠くへ跳ねていく。
けれどいくらも進まないうちに、強力な磁石に引かれたように、ビッキーさんの肩に戻ってきてしまった。
ビッキー「……な?」
ケロタは、盛大なため息を吐いた。
ビッキー「と、こんな事情で国にはいられなくて。 敵対する国の王子同士が離れられないなんて、洒落にならないからね」
ケロタ「いい迷惑だよ、まったく」
二人はタイミングを合わせたように揃ってお茶をすする。
(仲良しに見えるけど……)
○○「呪いを解く方法はないんですか?」
ビッキー「呪いを解けるのは、“至福のメロディー”を聴いた時なんだってさ。 だから、僕らそれを探して旅してるんだよ」
○○「至福のメロディー?」
ケロタ「な!? そう思うよな! 至福ってなんだよ」
ビッキー「こうしていろんな国を巡って、いろんな音楽を探して……まあ、いつかは出会えるさ」
ケロタ「いつかって、オマエは呑気だな~。ワシは早いとこ池で優雅~に美女ガエルとデートしたいってのに」
ケロタはブツブツと文句を言いながら、ビッキーさんの頬をつついた。
ビッキー「ごめん、ごめん」
ビッキーさんは笑い、小さな声で歌を口ずさむ。
美しい歌声に聞きほれていると、雲間から微かな光が射し始めた…―。