体調を崩した〇〇様を看病しながら、数日……
彼女は日に日に瑞々しい体を取り戻していった。
看病してくれてありがとう、と彼女は微笑む。
その頬は艶が戻り、甘い香りを漂わせて私を誘惑する。
(しかし、まだです……まだ、足りない)
肌はもっと張りが出て、体ももう少しふくよかに……
(何よりも、さまざまな感情を身につけて、蕾が花開き甘やかな香りを放った後……)
(そうなって初めて、あなた様は完璧な果実となる)
体調は戻ってきたからといとまを乞う彼女の手を、私はそっと握った。
(ああ、やはりまだ足りていない。熟す前に食してしまうのはもったいない)
そっと彼女の手をさすりながら、その瞳を覗き込む。
ネペンテス「まだ食事を取り続けてください……あなた様が健康になるまで。 そして、もっとふくよかに、もっと瑞々しく……!」
〇〇「!?」
私の言葉を聞いた瞬間、彼女の瞳が凍りつく。
一瞬、手を振り払おうとする素振りを見せたけれど……
〇〇「……!?」
私の力にはあらがえないのか、必死にもがくばかりで逃れられない。
ネペンテス「ふふ……元気に暴れるくらいが、私は好みですが。 そんな怯えたような顔をされると……ここであなた様を食べてしまいたくなってしまいます」
〇〇「え……?」
笑みを向けると、彼女は目を見開いた。
(感じているのですね、私の香りを)
狙った相手を射止めるために、私が放つ甘い香り…―。
(どのような相手であっても、私は決して逃がさない)
(その手段は問わないつもりでした。けれど……)
肉体だけを捕らえるのでは、物足りない。
身も心も、全てを私のものにしてしまいたかった。
〇〇「……ん……私……」
あらがおうと悶えるが、私の香りは既に彼女を蝕んでいた。
ぎこちなく動く体を、そっと支え、抱き上げる。
ネペンテス「おや……? いけませんね、また体調が悪くなったようです」
(悪くなったのではなく……私が彼女を動けなくしたのですが)
わかっていながら芝居を打って、彼女をベッドへと運んでいく。
そっとベッドに横たえると、スプリングが静かに軋んだ。
ネペンテス「ほら、いけません、大切なお体なのだから、気をつけて……」
〇〇「あ……ネペンテスさん……?」
それでもどうにか抵抗しようとしているのか、彼女は必死に顔を上げた。
その瞳を、覗き込む。
ネペンテス「〇〇……」
瞬間。彼女の動きがピタリと止まった。
ネペンテス「ああ……やはりいい香りです。今までに食したどんなものよりも、香り高く私を誘う……」
ネペンテス「〇〇、本当に今すぐ食べてしまいたい」
耳元に囁きかけると、彼女は虚ろな眼差しで私を見上げた。
熱を帯びた目が、私に吸い寄せられてくる。
〇〇「ネペン……テスさ…―」
(ふふ……あなた様はもう、逃げられません)
(この私の唇を、舌を、やがて求めるようになる……)
そっと首元に舌を這わせる。
すると……
〇〇「あ……っ」
熱を帯びた声は、甘えるように私を捕らえる。
(ああ……もう今すぐにでも、あなた様の全てを手に入れてしまいたい)
ゆっくりと舌を這わせると、私の熱が彼女に染み込んでいった。
もう〇〇は、私にあらがおうとしない。
(その瞳は、私を求めていますね……?)
潤んだ視線に、私は口角を上げた。
ネペンテス「〇〇、もう少しだけ、私の傍に……。 そして、その時が来たら……どうか私の愛をその身で…―」
〇〇「ん……ネペン……テス、さん」
彼女は全てを委ねるように、力を抜いて目を閉じた。
(それでいい……私があなた様の花を開かせ、熟すようにと導きましょう)
ネペンテス「そう、私に身を委ねてください……」
ゆっくりと彼女の体に手を這わせれば、触れた部分から熱を帯びる。
その肌からは、蜜のような甘い香りがふわりと漂い、私と彼女の温もりが、一つに溶け合っていったのだった…―。
おわり。