数日後…―。
先日目覚めさせたネペンテスさんより、改めて国に招待されて、私は花の精の国・ヴィラスティンの都を訪れていた…―。
(えっと、ウツボカズラの一族がいる城はここのはずだけど……)
門番に案内されたものの、城の中にネペンテスさんの姿はない。
門番「……おかしいですね、この時間はいつも城にいらっしゃるのですが。 お呼び立てして大変申し訳ございませんが……ネペンテス様は今、お留守のようでして」
〇〇「そうですか……」
門番「もしかすると……森にいらっしゃるかもしれません」
〇〇「森に?」
門番「はい。よく、舌が美食を求めていると、わけのわからないことをおっしゃって森へ出かけられるので」
〇〇「そ、そうなんですか」
(どうしよう……でも、せっかく来たんだし、探しに行ってみようかな)
門番にお礼を言った後、一抹の不安を抱えながらも、私は彼がいるかもしれないという森へ向かった…―。
…
……
鬱蒼とした森に入り、しばらく行くと…―。
??「……う……うぅ……」
〇〇「……今のは?」
誰かのうめき声が聞こえた気がして、辺りに視線を送る。
すると木陰の隅に、人が倒れているのを発見した。
〇〇「大丈夫ですか!?」
ネペンテス「……うう……大丈夫です……ただの食あたりです……」
〇〇「……! ネペンテスさん!?」
ネペンテス「その声は……あなた様でいらっしゃいましたか、うぅ……」
苦しげな声を抑え、彼が立ち上がる。
ネペンテス「すみません……この辺りではあまり見ない食材を見つけたので、口にしたらこの通り……」
ネペンテスさんが指差した先にあったのは……
見たこともない形をした植物と、珍しい色の玉虫だった。
私は、二つを見比べて……
〇〇「この植物を食べたんですか?」
木を這うようにして伸びるその植物は、葉に見るからに毒々しい斑点をまとっている。
ネペンテス「はい……なかなか美しいフォルムと色をしているでしょう?」
〇〇「……。 こんな危険そうな植物を、どうして……」
口元を押さえながら、いかにも体に悪そうな植物を見る。
途端、ネペンテスさんは背筋を伸ばし、顎を引いた。
ネペンテス「失礼な! 意味もなく口にしたのではありません。 新しい御馳走の発見は、世界の幸福にとって天体の発見以上である、とも言います。 私は新しいものを見ると、実際にこの舌で味わってみずにはいられないのです」
〇〇「……そうだったんですか。 でも、今はとにかく一度城に戻りましょう。歩けそうですか?」
ネペンテス「はい、なんとか……」
震える足元を見て、ネペンテスさんに肩を貸す。
(……なんだろう? この匂い)
甘い蜜のような、嗅いでいると酔ってしまいそうな匂いを感じる。
ネペンテス「……どうかしましたか?」
見つめられると溶けてしまうかと思うような彼の視線が、じっとりと私を見つめる……
〇〇「……っ、い、いえ、なんでもありません」
私は、慌ててネペンテスさんの視線から逃げるように顔を振った。
(この人の視線をそのまま見ていたら、いけないような気がする……)
なぜか胸騒ぎがするまま、私は彼を城へと運び届けたのだった…―。