第2話 美食道

数日後…―。

先日目覚めさせたネペンテスさんより、改めて国に招待されて、私は花の精の国・ヴィラスティンの都を訪れていた…―。

(えっと、ウツボカズラの一族がいる城はここのはずだけど……)

門番に案内されたものの、城の中にネペンテスさんの姿はない。

門番「……おかしいですね、この時間はいつも城にいらっしゃるのですが。 お呼び立てして大変申し訳ございませんが……ネペンテス様は今、お留守のようでして」

〇〇「そうですか……」

門番「もしかすると……森にいらっしゃるかもしれません」

〇〇「森に?」

門番「はい。よく、舌が美食を求めていると、わけのわからないことをおっしゃって森へ出かけられるので」

〇〇「そ、そうなんですか」

(どうしよう……でも、せっかく来たんだし、探しに行ってみようかな)

門番にお礼を言った後、一抹の不安を抱えながらも、私は彼がいるかもしれないという森へ向かった…―。

……

鬱蒼とした森に入り、しばらく行くと…―。

??「……う……うぅ……」

〇〇「……今のは?」

誰かのうめき声が聞こえた気がして、辺りに視線を送る。

すると木陰の隅に、人が倒れているのを発見した。

〇〇「大丈夫ですか!?」

ネペンテス「……うう……大丈夫です……ただの食あたりです……」

〇〇「……! ネペンテスさん!?」

ネペンテス「その声は……あなた様でいらっしゃいましたか、うぅ……」

苦しげな声を抑え、彼が立ち上がる。

ネペンテス「すみません……この辺りではあまり見ない食材を見つけたので、口にしたらこの通り……」

ネペンテスさんが指差した先にあったのは……

見たこともない形をした植物と、珍しい色の玉虫だった。

私は、二つを見比べて……

〇〇「この植物を食べたんですか?」

木を這うようにして伸びるその植物は、葉に見るからに毒々しい斑点をまとっている。

ネペンテス「はい……なかなか美しいフォルムと色をしているでしょう?」

〇〇「……。 こんな危険そうな植物を、どうして……」

口元を押さえながら、いかにも体に悪そうな植物を見る。

途端、ネペンテスさんは背筋を伸ばし、顎を引いた。

ネペンテス「失礼な! 意味もなく口にしたのではありません。 新しい御馳走の発見は、世界の幸福にとって天体の発見以上である、とも言います。 私は新しいものを見ると、実際にこの舌で味わってみずにはいられないのです」

〇〇「……そうだったんですか。 でも、今はとにかく一度城に戻りましょう。歩けそうですか?」

ネペンテス「はい、なんとか……」

震える足元を見て、ネペンテスさんに肩を貸す。

(……なんだろう? この匂い)

甘い蜜のような、嗅いでいると酔ってしまいそうな匂いを感じる。

ネペンテス「……どうかしましたか?」

見つめられると溶けてしまうかと思うような彼の視線が、じっとりと私を見つめる……

〇〇「……っ、い、いえ、なんでもありません」

私は、慌ててネペンテスさんの視線から逃げるように顔を振った。

(この人の視線をそのまま見ていたら、いけないような気がする……)

なぜか胸騒ぎがするまま、私は彼を城へと運び届けたのだった…―。

 

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