花の精の国・ヴィラスティン 蒼の月…―。
花の精の国にある、深い深い森の中……
陽の光さえ届かない深淵の下生えで、その王子様は眠っていた。
〇〇「……っ!!」
突如、指輪が輝き出し、光が辺りを満たす。
そして目覚めた彼が、最初に口にした言葉は…―。
ネペンテス「……ん……ここは……城近くの森……? あなた様は?」
〇〇「大丈夫ですか? 私は〇〇です」
ネペンテス「〇〇様……」
鋭さのある、どこか感情の所在がわからない瞳をしている。
(この人が、ヴィラスティンの王子様の一人?)
蔦が絡みつくような彼の視線が、私を見つめる。
〇〇「あの……?」
ネペンテス「ああ……この香しい匂い……柔らかそうな肌……。 あなた様は……あなた様は、何て瑞々しくて、美味しそうなんでしょう!!」
〇〇「え……!?」
(おいしそう? どういう意味……?)
思わず身を引き、不思議な色をしたその王子様の瞳を見る。
ネペンテス「……おっと、これは失礼いたしました。 私、大地と水の女神に選ばれたウツボカズラの王子、名をネペンテスと申します。 長く眠っていたせいか、あなた様の放つ素敵な匂いに、つい美食家の魂が惹かれてしまい。 しかしながら、今はまだその時ではない……。 あなた様が成長されるその日まで、しばし時間を置くことにしましょう」
そう言うとネペンテスさんは、帽子を押さえ、頭を下げる。
(変わった人……)
微かな怯えを胸に残したまま、彼の姿をもう一度目に入れる。
それが、ネペンテスさんとの強烈な出会いだった…―。