街の男達に襲われた○○を、どうにか助け出してから数日後…―。
シュニー「……はぁ……」
外遊から帰ったフロ兄に先日の事件の詳細を報告し終えた僕は、自室に戻った後、ベッドに腰掛けながらふさぎ込んでいた。
シュニー「……○○、明日帰っちゃうのか。あいつは僕の召使いなのに……」
報告の際、あんなにも低俗な奴らに苦戦してしまったことを咎められる覚悟はできていた。
けれどもフロ兄の口から出た言葉は、明日○○を国に帰せというもので…―。
シュニー「……くそっ!」
もどかしさから、ベッドに拳を振り下ろす。
(召使いは、主人から離れちゃいけないんだぞ。何があったって主人の傍にいなきゃ駄目なんだ。それなのに……)
逆恨みだとわかってはいるものの、○○を責めずにはいられない。
そうして行き場のない想いをぶつけるかのように、何度も何度もベッドに拳を振り下ろして…―。
シュニー「はぁ、はぁ…………っ」
僕はやるせない思いを抱えながら、そのままベッドへと倒れ込んだ。
(……どうしても、駄目なのかな。フロ兄にもう一度頼み込んだら、もしかして……)
シュニー「……あの様子じゃ無理かな……」
○○を国に帰すと言われた瞬間、絶対に嫌だと抗ってはみたものの……フロ兄は珍しく自分に対しても聞き分けのない僕に驚いたのか、一瞬だけ目を見開いた後、話は終わったとばかりにばかりに目を閉じてしまい、何を言っても一切聞き入れてはもらえなかった。
(でも……あいつと離ればなれになるなんて、そんなの嫌だ……)
明日のことを思うと、胸の奥が痛む。
そうして僕が、思わず枕を抱きしめたそのとき…―。
フロスト「シュニー、いるか」
ノックの音と共に、フロ兄の声が聞こえてくる。
シュニー「フ、フロ兄?ちょっと待って」
(なんだろう?話ならさっき終わったはずなのに)
そう思いながらも、僕は慌てて飛び起きて部屋のドアを開ける。
シュニー「どうしたの?わざわざ僕の部屋に来るなんて。あ、今侍女にお茶を用意させるから…―」
フロスト「構わん。長居するつもりはない。一つだけお前に確認したいことがあってな」
シュニー「……?確認?」
フロスト「ああ……トロイメアの姫は、お前の何だ?」
シュニー「え……?いきなりどうしたのさ?」
フロスト「質問で返すな。答えろ」
シュニー「……っ、わかったよ。でも、さっきあいつは召使いだって説明したはずだけど……」
フロスト「それは、本心か?」
シュニー「え……?」
フロスト「ただの召使いにしては、妙に固執しているようだが」
シュニー「固執……?」
思いがけないフロ兄の言葉が、僕を困惑させる。
フロスト「……まあいい。邪魔をしたな」
シュニー「あっ、フロ兄…―」
僕の言葉を最後まで聞くことなく、フロ兄は部屋を出て行ってしまった。
シュニー「何だったんだ……?」
不思議に思いながら、ベッドに戻って倒れ込む。
(妙に固執してる、って。別にそんなつもりは……あいつは本当に、ただの召使いなんだし…―)
そう思った瞬間、僕の頭に街の男達と対峙したときのことが過ぎった。
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シュニー『こいつに手を出すな!こいつは僕の…―』
ー----
シュニー「そういえば、僕はあのとき…―」
(何て言おうとしたんだ……?)
とっさに出た言葉の先が自分でもわからずに、僕は首を傾げる。
シュニー「あいつは僕の召使い……ううん、なんか違う」
(一緒にいたいって、あいつの笑顔が見たいって思う……それって)
そこまで考えて、僕はやっとひとつの言葉に行き着いた。
シュニー「友達……」
(僕は○○のことを、友達だって思ってるんだ)
シュニー「……」
そう思うと、なんだか胸がふわふわして落ち着かない。
シュニー「……けど、本当にそう思ってるなら、ずっと傍に置いておこうとするのはおかしいよな。友達って、多分そういうものじゃないと思うし……」
(だからあいつが帰るっていうなら、笑顔で送ってやらないといけないのかも)
シュニー「…………よし、決めた」
(明日は絶対、笑顔であいつを見送ろう。そして『また遊びに来いよ』って言ってやるんだ)
シュニー「……あ、もしかしてフロ兄、これに気づかせようと……?」
(うーん。でも、あのフロ兄がそんなこと考えるかな)
シュニー「……まあ、いっか。それより、明日は見送りなんだしそろそろ寝ないとな」
そうして僕は、部屋の明かりを消し……
少しの寂しさを抱えたまま、眠りについたのだった…―。
おわり。