街の男達に襲われた○○を無事に助け出した後…―。
僕と○○は、スノウフィリア城へと続く雪道を歩いていた。
(本当に、こいつが無事でよかった)
(それにしても……)
○○「シュニー君」
シュニー「?」
○○「ありがとう」
シュニー「え……?」
(ありがとう、なんて……初めて言われたな)
(……)
(……落ち着かない……)
どこかくすぐったいような気持ちに翻弄されながら、僕はひたすらに雪道を進む。
すると、そのとき……
○○「ねえ、シュニー君」
シュニー「何?」
これまで無言で歩いていた○○が、突然声をかけてきた。
○○「私、何か気に障ることしちゃいましたか?」
シュニー「へ?」
僕は驚きの声を上げながら、彼女の方へと顔を向ける。
シュニー「何で?」
○○「だってさっきから、一言も話してくれないですし」
シュニー「そ、それは……」
○○「何ですか?」
シュニー「召使いは知らなくていいんだ」
○○「召使いだからこそ、ご主人様のことを一番よく知りたいんです」
(……っ! こ、こいつ、召使いのくせに……)
(くそっ。そんなふうに言われたら、答えないわけにいかないだろ……)
シュニー「……」
僕はひとつだけため息を吐いた後、不本意ながらも口を開く。
シュニー「ありがとう、って……初めて言われたんだ」
○○「え?」
シュニー「そんなこと、今まで言われたことなかったから。 なんだか、ふわふわして落ち着かないんだ」
○○「シュニー君……。 ……守ってくれて、嬉しかったです。ありがとう、シュニー君」
(あ……)
(またこいつ、ありがとう、って……)
胸の奥がくすぐったくて落ち着かない。
だけど、それは決して嫌な感覚じゃなくて…―。
シュニー「……当たり前でしょ」
僕はそのくすぐったさを隠すように、目の前の○○に、胸を張る。
シュニー「お前は僕だけの召使いだからね、しょうがないからこれからも僕が守ってあげる」
○○「うん」
二人で、微笑みあった後…―。
シュニー「でも、主人に手間かけさせるなんて、ダメな召使いには少し教育が必要だね」
僕は笑みを浮かべながら、彼女の顔を覗き込んだ。
○○「きょ、教育って……何をするの?」
シュニー「するのは僕じゃなくて、お前。主人にはもっと敬意を払って貰わないとね」
○○「敬意……?」
シュニー「そう、僕の頬にキスしなよ」
○○「……っ、え!?」
僕はあごを突き出して、彼女の前で背筋を伸ばした。
シュニー「早くしろよ」
○○「ええと……」
○○は僕の命令に戸惑うばかりで、なかなか行動に移そうとしない。
(まったく……)
シュニー「仕方ないなあ」
○○「え……?」
○○に顔を近づけ、柔らかな頬に唇を押し当てる。
○○「っ!」
シュニー「わかった? こうするんだよ?」
僕は小さく笑った後、もう一度彼女の頬に唇を落とす。
するとみるみる内に○○の顔が赤く染まった。
○○「わ、わかりました、もう十分、わかったから大丈夫です……」
シュニー「あーあ、顔が真っ赤だね」
先ほどとは比べものにならないほど慌てふためく彼女を見ると、自然に笑みがこぼれてしまう。
○○「仕方ないですよ、道端でこんな……キスとかされたら……」
シュニー「だったら次は、○○からすること。いい?」
○○「っ、シュニー君、今私の名前……」
(……へえ。僕が名前を呼ぶだけで、そんな顔するんだ)
(なら、これからはたくさん呼んでやらないとね)
シュニー「わかったの? ○○」
僕はわざと名前を呼びながら、彼女に返事を促す。
○○「はい……」
シュニー「うん、それでこそ僕の召使いだね」
素直に返事をする○○の頭を撫でて、褒めてやる。
(召使いの躾は、主人の務めだからな)
(これからもずっと、僕がお前を躾けてやる)
(……他の奴になんか、絶対触らせないからな)
そうして僕は、なおも彼女の頭を優しく撫でながら……
自分だけの従順な召使いを、飽きることなく見つめていたのだった…―。
おわり