翌日、おばあ様の誕生日が訪れた。
私とリッツさんはおばあ様を中庭に呼び出して…-。
リッツ「おばあ様、誕生日おめでとう!」
王太妃「まぁ……! この花は……」
リッツさんがおばあ様の白い頭に、そっと紫色の花冠を乗せる。
それは昨日、二人で一生懸命探した思い出の花で作ったものだった。
すると、リッツさんの瞳と同じ色のおばあ様の目に涙が滲んだ。
王太妃「懐かしい……今でも思い出すわ。あの人がこうしてこの花を贈ってくれた時のこと……。 この花、今ではあまり見なくなったから、探すの大変だったでしょうに」
リッツ「まあね! けど〇〇が一緒に探してくれたから」
そっと視線を私に向けて、リッツさんが私の名前を呼ぶ。
その頬が、かすかに赤くて……
王太妃「貴女が……? そう……ふふ」
リッツさんの横に立つ私を見て、おばあ様が嬉しそうに微笑む。
すると、今度はリッツさんの方に視線を戻して……
王太妃「そう……あんなに小さかったリッツが……。 貴女も、本当の恋を知ったかしら?」
リッツ「おばあ様?」
〇〇「……!」
リッツさんと顔を見合わせる。
リッツ「……」
〇〇「……」
おばあ様の言葉に、頬が熱を持っていく。
視線が重なると、リッツさんはきょとんとした様子で……
リッツさんはおばあ様の方に向き直り、屈託なく笑った。
リッツ「もう! おばあ様、何言ってるんだよ、恋なんてオレ、何回もしてるよ!」
〇〇「そ、そうですよね」
そう相槌を打ちながらも、私の胸はどきどきと音を立てていた。
こうしておばあ様へのお祝いは無事成功したのだった。
…
……
やがて、おばあ様が部屋へと戻っていき、私達も城へと戻った。
けれど思いがけず二人きりになってしまったその空間で……
リッツ「……」
〇〇「……」
(……困ったな、さっきからずっとこの調子)
気恥ずかしいような沈黙に、胸は高鳴るばかり。
(どうしよう……おばあ様があんなこと言うから)
(変に、緊張しちゃって……)
ひとりで体を堅くしていると……
リッツ「あ~~、今まで深く考えたことなかったから、わかんないけど!」
〇〇「え……っ!?」
突然、大きな声を上げた彼に抱き寄せられた。
なんとか心を落ち着かせて、彼の腕の中から顔を上げれば……
リッツ「あのさ、キスする気になった?」
〇〇「え? あの……え??」
吐息を感じるほどの距離に、一気に鼓動が大きくなった。
リッツ「そろそろ……いいんじゃないの? オレ……変なんだよ、他の女の子が相手の時はそんなことなかったのに。 キミ相手だと、なんでか妙にドキドキする……」
〇〇「リ……リッツさん?」
突然の出来事に、ただリッツさんの顔を見上げることしかできない。
すると……
リッツ「……もうっ、キミ、仕方ないなぁ」
〇〇「あ……」
彼の吐息を一層近くに感じたかと思うと、柔らかなものが頬に触れた。
それは、リッツさんの唇で……
額に触れた軽い挨拶でもなくて、優しさでもない……熱いキス……
リッツ「本当の恋って、じれったいものなんだね」
いたずらっぽく笑う彼に、私の頬はますます染まっていく。
リッツ「今は、これくらいで許してやるけど……次は覚悟しておいてよ。 あとオレのことも、リッツさんじゃなくて、リッツって名前で呼んで」
〇〇「な、名前……リッツ……?」
おそるおそる唇を震わせて、彼の名前を呼ぶ。
リッツ「うん、〇〇」
もう一度彼は私の頬に口づけると、満足そうに微笑んで……
そのまま柔らかに私を抱きしめるのだった…―。
おわり。