ダヤン「それなら、今このギルドにあるもの、できる限りそれに使え」
ギルドの男2「それでは、他の国へ渡すものにまで、支障が出てしまいます」
ダヤン「足りない材料はオレが集めてくる。 これから、コイツとな」
こうして、オレと〇〇は行商に出かけることになった…―。
ダヤン「よし、あそこに寄るぞ」
前方に目的の薬屋が見え、オレは〇〇に声をかける。
〇〇「薬屋さん?」
ダヤン「その通り!」
緊張している〇〇を横目に、オレは意気揚々と扉を叩く。
ダヤン「どうもー!」
薄暗い店の奥から、人のよさそうな親父が顔を覗かせた。
薬屋「おやダヤンさん。今日はいかがしました?」
ダヤン「近くまで来たんで、旦那の顔を拝んでおきたいなーと」
薬屋「ああ、それはそれは。で、今日は何のご紹介で?」
ダヤン「もう、気が早いな~、ってことで、これですよ」
軽い挨拶の後、オレはギルドから運んだ薬をいつもより多めに並べる。
ダヤン「あ、そうだそうだ。旦那には相棒を紹介しておきますね」
薬屋「相棒……?」
薬屋は顔を上げ、オレの背後に立っていた〇〇に目を留める。
薬屋「おや、随分とお綺麗なお嬢さんで」
ダヤン「おっ、やっぱりお目が高いねぇ。 何とこの方、トロイメアのお姫様ですよ」
薬屋「トロイメアの!?」
ダヤン「そうなんですよ! 実は…-」
…
……
ダヤン「それで、ギルドを気の毒に思った姫が、自ら行商の手伝いをしたいと……」
要所要所をごまかしながら、オレは〇〇のことを薬屋に説明した。
薬屋「はぁ~!」
薬屋は、感心しきった眼差しで〇〇を見つめている。
〇〇「えっと、そうなんです。少しでもお手伝いができたらなと……よろしくお願いします」
〇〇は焦りながらも、丁寧に頭を下げた。
(よし、抜群の対応だっ)
薬屋「それは、いつもより多めにいただかないと。 じゃあ、これとこれと……」
ダヤン「ありがとうございますー!」
〇〇「……ありがとうございます!」
〇〇に振り返ると、頬を紅潮させていた。
こっそりピースサインを送ると、彼女も嬉しそうに、小さくピースサインを返してくれたのだった…―。
…
……
暗闇に、ぱちぱちと焚火が燃えている。
一日の行商を終え、ようやく休息できる場所に辿りついていた。
ダヤン「ふあーっ! 今日も働いた働いた! あんたも疲れただろ? お疲れさん」
彼女は疲れているはずなのに、オレの話ににこにこと相槌を打っている。
(元気だな……疲れてるはずなのに)
金の勘定をしながら、雑談を交わし合っていた時……
〇〇「くしゅっ……!」
〇〇の肩が震える。
(あ……)
その体があまりに頼りなく、オレは咄嗟に外套をかけていた。
すると〇〇は驚いたように、オレを見つめた。
ダヤン「寒くなってきたな」
なんか気恥ずかしくて、ふいと顔を背ける。
〇〇「う、うん……ありがとう」
ダヤン「あんたに風邪引かれたら困るし」
〇〇「ダヤン君……」
(……っ)
(あんまりそういう顔で見んなって……)
目をきらきらと輝かせてオレを見る彼女に、思わず言葉をかぶせた。
ダヤン「宣伝塔のトロイメアの姫は大事にしなきゃなんねえだろ?」
〇〇「またそんな……!」
ダヤン「今日の稼ぎも上々だったし、うん! あんたのおかげだな」
〇〇は微かに頬を膨らませ、オレを見つめている。
(ついふざけちまうけど……本当に、あんたのおかげだと思ってる)
思っていることを全て打ち明けられる程、オレは素直な奴ではない。
(でも、今なら……)
ダヤン「だから、これからも一緒にオレと旅しねえか?」
〇〇「え……?」
ダヤン「あんたとなら、がっぽり稼げるからな!」
余計な一言だったのか、彼女は呆れ顔を浮かべる。
(あ、違う……そうじゃ、なくて!)
ダヤン「つまり、あんたのことも、大好きになりそうだぜ!」
〇〇「……!」
彼女はきょとんとしてから、子どものように破顔した。
(顔が、あっちい……もしかして赤くなってるのか?)
(なったとしても焚火で隠れる……よな?)
何とか顔の赤さを誤魔化したくて、オレは夜空を見上げる。
(あ……)
明日からの旅路を予感させるように、夜空はどこまでも澄み渡り、オレ達を見守っていた…-。
おわり。