ギルドの男2「本当に、申し訳ありません!!」
鍵を開け、閉じ込められている場所から飛び出した瞬間……
目の前で男達が、深々と頭を下げた。
ダヤン「……どういうことだ」
ギルドの男3「先ほど、犯人の男が名乗り出ました……。 何でも、祖国で流行病が発症して、大量の薬が必要だったとか……」
〇〇「そんな事情が……」
ダヤン君を見ると、その場で仁王立ちしたまま、きつくこぶしを握り締めていた。
複雑な表情で彼はたっぷりと間を置いた後、口を開いた。
ダヤン「……金の恨みは怖えぞ」
ギルドの男2「すみません……」
ダヤン「それで? 薬は足りたのかよ」
ギルドの男2「え……?」
ダヤン「薬は足りたのかって、聞いてんだよ」
ギルドの男4「はっ、はいっ! それがあと少し、少しだけ足りないようで」
(ダヤン君……)
―――――
ダヤン『いいか? 世の中金だ。金だ、金!』
ダヤン『オレは、愛だの人情だの言ってるやつがいっちばん、馬が合わねえ』
―――――
(あんなこと言ってたけど、本当は優しい人なんだ……)
ダヤン君の深刻な横顔を見る。
するとふっと目が合い、彼は困ったように笑った。
ダヤン「しゃーないな」
ひとつため息を吐いて、ダヤン君は真剣な眼差しをギルドの人達に向ける。
ダヤン「それなら、今このギルドにあるもの、できる限りそれに使え。 お前達もみんな、調合を手伝ってやるんだ。分かったか」
ダヤン君は、その場に集まった男達を見回し、強い口調で命じるように言った。
ギルドの男2「し、しかし、ダヤン! それでは、他の国へ渡すものにまで、支障が出てしまいます」
ダヤン「足りない材料はオレが集めてくる」
そこまで言うと、突然…-。
ダヤン君の瞳が、輝きを帯びた気がした。
ダヤン「これから、コイツとな」
〇〇「え……?」
ダヤン君が、私をくいと親指でさし示し、ニッと笑っている。
白い歯を覗かせた笑みは、無邪気にきらきら輝いている。
ダヤン「コイツはトロイメアの姫だからな。 抜群の宣伝効果で、材料も金もたーっぷり集まる違いねえ!」
(今の無邪気な笑顔の意味って……これ?)
〇〇「ま……待って、私行商なんてしたことない…-」
慌ててダヤン君に言い募ると……
ダヤン「だーじょうぶ!」
ポンと、頭の上に彼の手のひらが乗せられた。
ダヤン「よろしくな、相棒!」
ギルドの男達「なんとありがたい! よろしくお願いします!!」
ダヤン君の笑顔とギルドの人達の期待に、私はもう何も言えなくなってしまった…-。
…
……
それから数日後…-。
ダヤン「ふあーっ! 今日も働いた働いた!」
今日も日がな一日、行商に明け暮れた私達は、夜になりやっとひと息ついた。
(結局、ダヤン君に振り回されてる感じだな……)
私達は各国を渡り歩き、薬の材料を集めたり、王家や街へ薬を売って歩いている。
ダヤン「あんたも疲れただろ? お疲れさん!」
ぽん、と私の背中を軽く叩き、ダヤン君はにっこり笑う。
〇〇「うん……お疲れ様」
ダヤン「いやーそれにしても、あんた人当たりいいから助かるよ。 オレ一人だと、胡散臭いって言われること、多いからさー」
〇〇「役に立ててるなら、よかった」
ダヤン「立ってる立ってる」
〇〇「あと、どれくらいで集まりそうなの?」
ダヤン「うーん、そうだなあ。もう、十分っちゃ十分なんだけど……。 ちょっとばかし、欲が出てきたっつうかさー」
〇〇「ダヤン君!?」
ダヤン「ははっ、悪い悪い。分かってるって」
商売っ気の強さをたしなめると、ダヤン君は眉を下げて笑った。
ダヤン「必要なぶんは、ちゃんと明日ギルドに送る。だからそう怖い顔すんなよ」
〇〇「怖い顔なんて……あ、くしゅっ……!」
すっかり日も落ちてしまったせいか、肌寒さにくしゃみをしてしまう。
すると……
ふわりと、体が温かなものに包まれた。
驚いて顔を上げると、すぐ傍にダヤン君の顔があった。
(あ……)
肩には彼の外套がかけられ、優しく体をくるまれている。
たき火に照らされた彼の頬の赤さと優しさが、鼓動を速めた。
ダヤン「寒くなってきたな」
外套からダヤン君の匂いがかすかに漂って、私の鼻をくすぐった。
(この匂いは……薬の……)
〇〇「う、うん……ありがとう」
ダヤン「あんたに風邪引かれたら困るし」
〇〇「ダヤン君……」
ダヤン「宣伝塔のトロイメアの姫は大事にしなきゃなんねえだろ?」
〇〇「またそんな……!」
言い返しそうになるも、ダヤン君の無邪気すぎる笑みに二の句が継げなくなる。
ダヤン「今日の稼ぎも上々だったし。うん! あんたのおかげだな。 だから、これからも一緒にオレと旅をしねえか?」
〇〇「え……?」
ダヤン「あんたとなら、がっぽり稼げるからな!」
(がっぽり、稼ぐ……)
ダヤン「オレ、金が大好きだからさー。 つまり、あんたのことも、大好きになりそうだぜ!」
〇〇「……!」
そんな言葉も、お金と絡めて簡単に口にしてしまう。
そんなダヤン君が……
(嫌いには……なれない)
私はひとつため息を吐いて、嬉しそうにお金を数える彼を見る。
どこまでも無邪気なその表情に、何も逆らえる気がしなくて……
彼とのこれからの旅路を思い、私はひとり、苦笑いを浮かべたのだった…-。
おわり。