ダヤン君の薬の調合を手伝うことになった私は、モルファーンを出て、彼のギルド『メディシナ』を訪れていた。
けれど……
ダヤン「だー――! その粉末は空気にさらしちゃ駄目! だあっ! だから駄目だって! もっとゆっくり、ゆっくーり混ぜろ!」
ギルドの中に、彼の叫び声がこだまする……
○○「ご、ごめんね。なかなか上手にできなくて……」
ダヤン「ったく。いいから、はい次!」
何故だか私はダヤン君の厳しい指導を受けながら、薬の調合の知識を教わっている。
(何か、おかしいような……)
ダヤン「ああっ! それは三回かき混ぜてストップ!!」
○○「は、はい」
途中、幾度かもう駄目かもと思いつつ、何とか薬を作り終わった時だった。
にっこりと満面の笑みを浮かべたダヤン君が…―。
ダヤン「はい! 今日の講習はこれで終了。講習料よろしく」
○○「え……!?」
(講習料??)
予想だにしなかった言葉に、呆気にとられている傍で、ダヤン君がそろばんを弾き始める。
その横顔は真剣そのものだけど……
○○「ま、待って。私、今お仕事を手伝ってたんだよね?」
ダヤン「何言ってんだ。 この貴重な処方箋を教えてやって、タダで済むはずないだろ。 ほら。計算したらざっと、講習料はこんくらいかな!」
ダヤン君は、少しも悪びれてなどいない様子で、弾いたそろばんを見せてくる。
○○「ええっ! た、高いよ」
ダヤン「高いもんか! だって、トロイメアの姫さんだろ。 これしきの金でびびってちゃ、でっかくなれねえぜ!」
へへっと笑うダヤン君に、さらに呆気にとられそうになってしまう。
(だ、駄目だよね。ここで負けてちゃ……)
○○「あの、ダヤン君。これって、その……詐欺って言うんじゃ……?」
ダヤン「詐欺なんかじゃねえやい! まっとうなことだろ。ものを教えてやって、講習料をもらうだけなんだからよ」
(うーん、その言葉だけを聞けば、まっとうなんだけど……)
○○「最初から薬の調合を教えてくれるっていう話だったら、よかったんだけど……」
ダヤン「よかったけど、けど、何だ?」
ダヤン君の顔がぐっと近づき、鼻先も触れ合いそうな距離で見据えられる。
(ち、近いよ……!)
ダヤン「いいか? 世の中金だ。金だ、金!」
○○「う、うーん……」
ダヤン「オレは、愛だの人情だの言ってるやつがいっちばん、馬が合わねえ。 あんたは優しそうだから、愛だの何だの言うくちだろ? きっとオレ達、気が合わねえよな! ふんっ」
興奮気味で、ダヤン君が言い募る。
○○「でも……まだわからないよ」
ダヤン「何でだよ」
怒ったような声で、眉間に皺を寄せて、ダヤン君は問い返す。
○○「だってまだあんまり、一緒に過ごしていないから」
ダヤン「な、何だよ……いくら一緒にいたって、同じだろっ!」
ダヤン君は、やや頬を上気させ、そっぽを向いてしまった。
その時…―。
??「た、大変ですっ! ダヤン!!」
ギルドの中に、一人の男性が血相を変え駆け込んできた。
ダヤン君の顔つきも、突然引き締まる。
(何か、起こったの……?)
尋常ではない雰囲気に、ひどく胸がざわついた…―。