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ダヤン「あんた、死ぬよ。それ、毒影花。素人がうかつに触ると、痺れて永遠におねんねだから」
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美しい花畑で再会したダヤン君が毒花に触れかけた私を、助けてくれた。
そして今は、せっせとその毒花を手袋に肌を包み、摘んでいる。
ダヤン「毒薬の花って綺麗だろ」
〇〇「え……?」
ダヤン「皆まるで魔術にでもかけられたみたいに、引き寄せられて手を伸ばしちまう。気をつけな。美しいものには絶対に毒がある」
花を摘みながら言い切り、ダヤン君は顔を上げた。
そして、真剣な瞳をきらりと輝かせたかと思えば、ニッと笑う。
ダヤン「綺麗なモンと毒は金になる。あんたも、金になるかな?綺麗だから」
〇〇「え」
ダヤン「ははっ、冗談だよ。あんたって面白いな、単純で」
ダヤン君は、けらけらと軽快な笑い声を立てた。
それから不意に、はっと何か楽しいことでもひらめいたかのように、目を輝かせると…ー。
ダヤン「そうだ!あんた、オレの仕事、手伝わないか!?」
〇〇「仕事……?」
ダヤン君は立ち上がり、強引に私の手をぎゅっと握り締めた。
きらきら光る瞳で覗かれると、思わずどきりとしてしまう。
ダヤン「オレ達は、毒花の薬を材料として集めて調合して売っている。 ここの花は、最近見つかった新しい種類の毒花で……。つまりはまだ、他のやつらは手をつけてないってこと!」
〇〇「ええっと…?」
ダヤン「だーからー、儲け話だろ?コレ」
〇〇「あの……王子様だけど、商売をしているってこと?」
ダヤン「あ?王子?」
とダヤン君の顔に急にかげりが落ちる。
けれどすぐに彼は自嘲気味に、ふんと鼻を鳴らした。
ダヤン「誰かだよ。オレはそんな高尚な血は流れてねえ」
〇〇「でもダヤン君は薬売りのギルド長の一族なんじゃ……」
ダヤン「そんなことより!!」
私の話を遮るように、ダヤン君が声を張り上げた。
ダヤン「どうだ。薬の調合、手伝ってみないか?」
〇〇「ちょ、調合……? でも、どうして私に?」
ダヤン「そりゃ、あんたが素直に手伝ってくれそうだからだろ!」
ダヤン君は、さも当たり前だといった様子でニカッと笑った。
ダヤン「なあ、いいだろ? あんた優しそうだし、人のためになる薬、作ってみたいと思うだろ?」
力説するダヤン君の勢いに、押されそうになってしまう。
〇〇「だけど私、何の知識もないし、お手伝いできるかどうか……」
ダヤン「だーいじょうぶだって!今は、猫の手も借りたい状態。この毒影花の解毒剤は、まだオレのところでしか作れないし……。死人が出る前に、なんとかしたいんだ。さっきだってあんたも触れそうになったし。きっと、またあんたみたいな旅人が通りがかって…」
(ダヤン君……)
〇〇「わかった。私が手伝えるなら……」
切実に語る彼の様子に、私は頷いた。
ダヤン「そうこなきゃな!さすがトロイメアの姫さんだぜ!!」
ダヤン君のその笑顔の裏にある思惑に、私は気付くことができなかった…ー。