晴れてカミロさんが無罪放免となった、その翌日…―。
私はカミロさんに呼び出されて、国一番の大聖堂へと赴いた。
大聖堂の中は荘厳な雰囲気に満ちていて、上品なお香の匂いがほのかに漂っていた。
月明かりがあふれるステンドグラスもため息が出るほどに美しい。
○○「カミロさん」
待っていたカミロさんに呼びかけると、高い天井に私の声が響き渡る。
駆け寄る足音も大きく鳴って、慌ててゆっくりと歩き始める。
(つい、会えたのが嬉しくて気が急いて……)
恥ずかしく思いながらカミロさんに近づくと、彼はそんな私を優しく見つめた。
カミロ「呼び出したりしてしてすまない」
○○「いいえ。無事に釈放された姿が見られて、ほっとしました。やっぱりこの目で確かめたかったので……」
カミロ「今日、呼び立てたのは、礼が言いたかったからだ」
○○「でも、私何もしてませんよ」
カミロ「あの少年を法廷まで連れ出してくれた」
○○「……それは、たまたま出会っただけで……彼が自首する気持ちになったのは、カミロさんの人柄です」
カミロ「そういうオマエだから、あの子も法廷まで来る気になったんだろうな」
○○「あの子はどうなるんですか?」
カミロ「……薬物所持の件で、取り調べを受けている」
○○「え……?」
カミロ「俺を陥れようとしたことについては……被害届を出さなかった」
○○「……!」
大きく目を見開くと、カミロさんは、気まずそうに横を向く。
カミロ「そこまで驚くな」
○○「ごめんなさい。でも、意外で……」
(だって、あんなに勤めに熱心だったのに)
カミロ「今まで、ルールを重視して、厳しく取り締まればよいと思っていた。だが……裁かれる方だって、気持ちや事情がある。今回の件で思い知った。あの少年も、自分の行いを反省している。これ以上の糾弾は必要ない。憎むべきは罪であって、相手ではないしな。それを教えてくれたのは……オマエだ」
照れた顔を真っ直ぐ向けられ、途端に心音が早鳴りを始める。
○○「私は本当に何もしてません」
カミロ「いや、オマエの優しさや誠実さを見てると、それで人は変わると気づいた……現に……俺も変わった」
熱い眼差しが注がれて、縫いとめられたようになる。
カミロ「俺は……俺を変えてくれた人に思いを伝えたい」
カミロさんの翼がわずかに呼吸するように広がった。
それを見ながら、まるで私にも羽が生えたような、ふわっとした思いに胸が膨らむ。
カミロ「オマエのことを、気づいたら……とても愛しいと思ってた」
○○「……っ」
あまりにもストレートな告白に、少し眩暈がする。
(どうしよう……嬉しい……)
カミロ「その……よければ……口づけしても」
○○「!!」
もっと直接的な問いかけに、私は真っ赤になって、カミロさんを見つめ返す。
吸い込まれそうなほど切なげなカミロさんの眼差しが、胸を捉えて離さない。
カミロ「……いいだろうか?」
生真面目に念押ししてくるカミロさんを前に、耳たぶまで熱くなるのを感じながら、私は小さく頷いた。
カミロ「……っ」
ゆっくりと整った顔が近づき、吐息が唇の先をくすぐる。
カミロ「この国が口づけを禁じてなくて、良かった……俺は禁を破らない自信がない……」
○○「……っ」
つぶやきの後、柔らかい感触が淡く重なってすぐに離れた。
ひどく照れた顔が、傍で微笑む。
カミロ「初めてで……下手だったら、すまない」
○○「だ、大丈夫です」
私も大真面目に返すと、彼は緊張が解けたような優しい笑みを浮かべた。
カミロ「なら……言葉に甘えて」
○○「……っ」
再び重なる唇が、じんとした甘さを運んでくる。
うっとりと力が抜けてしまうのは、上手いとか下手とかじゃなくて……きっと相手がカミロさんだから……
どこかで鳴らされている、大聖堂の高らかな鐘の音が聞こえてきた…―。
おわり。