それからも毎日のように、時間があるとカミロさんは私を案内してくれた。
そんなある日…―。
礼拝堂をいくつか巡っているうちに、すっかり暗くなっていた。
○○「素敵なところばかりでした。結婚式もこんなところでできたらいいなって思って見てしまいました」
カミロ「け、結婚!?」
立ち止まったカミロさんが1オクターブ声をあげて返す。
○○「い、いつかの話です。まだ予定も相手もなくて……」
カミロ「そ、そうか……」
安堵したような吐息をもらされ、妙に胸がざわめいた。
カミロ「気に入ってくれたなら良かった。この国を好きになってもらいたいからな」
○○「もう好きですよ」
カミロ「良かった」
目を細めるカミロさんは柔らかい表情をしてる。
(こんな顔もするんだ)
カミロ「オマエがいいなら、このままずっとこの国に…―」
強い風が吹いて、よく聞き取れない。
○○「え?」
カミロ「いや、なんでもない」
カミロさんは苦笑すると、また歩き出そうとする。
カミロ「そろそろ部屋へ送ろう。本当はもっと……」
また何か言いかけたときだった…―。
通りの向こうから走ってくる少年が見える。
○○「あっ」
カミロ「○○……!」
ぶつかると思ったときに、目の前にカミロさんが私を庇うように立った。
ばさっと大きな翼が広がり、私を包み込むようにかばう。
カミロ「……っ……?」
少年はカミロさんにぶつかると、謝りもせずに走り抜けていってしまう。
カミロ「……」
○○「カミロさん?大丈夫ですか?」
カミロさんは、訝しげな顔をして少年の去った方を見つめていた。
カミロ「ああ……」
(どうしたんだろう……)
けれど、すぐに表情を凛々しく引き締める。
カミロ「子どもとはいえ、感心できないな。街の規律が乱れるもとだ」
○○「本当に、大丈夫でしたか?」
羽をたたんだカミロさんを気遣って顔をあげると、思わぬほど近い距離で視線が合った。
どきっと胸が一つ大きく鳴る。
カミロ「怪我はないか?」
○○「わ、私は平気です。カミロさんが守ってくれたから」
カミロ「当然だ。これくらい……」
カミロさんの手が私へと伸びて、髪に一瞬触れそうになったとき……
○○「……!」
犬の吠える声が聞こえてきた。
部下「カ、カミロ様……!?」
見れば、以前出会ったカミロさんの部下が、犬を引き連れて近づいてきている。
部下「まさか、そんな…―」
カミロ「どうしたというんだ」
青ざめた顔でカミロさんを見る彼の部下の傍で、犬はけたたましくほえ続けている。
部下「カミロ様……申し訳ありません。少し衣服を改めさせてもらえませんか?」
カミロ「! どういうことだ」
部下「犬が……薬物に反応しているようですので」
カミロ「まさか、俺を疑っているのか?」
部下「いえ……しかし、どんな状況下においても正義を行使せよと、あなたから教えられました」
カミロ「……」
部下「……すみません」
頷くカミロさんの体を部下の人が改めていく。
やがて、ポケットから何かを取り出した。
部下「これは……最近流行している禁止薬物……」
○○「え……」
カミロさんも彼の部下も、信じられないといった顔つきで呆然と立ちすくんでいる。
カミロ「俺は、決してそんな……! まさか……さっきの…―」
けれどカミロさんが、その先の言葉を紡ぐことはなかった。
(ぶつかった子どもが、カミロさんのポケットに……?)
恐ろしいほどに緊張した空気が、夜の闇を濃くしていった…―。