裁判の傍聴見学をした次の日…―。
迎えに来てくれたカミロさんに案内され、今日は警察組織の施設を見学させてもらっている。
○○「立派な礼拝堂が多いんですね」
今、荘厳な鐘を奏で始めた鐘楼を見上げて言った。
カミロ「罪人には少しでも自分の罪と向き合って、悔い改めてもらいたいからな」
○○「こんな荘厳な礼拝堂を見たら、すぐに懺悔に行きたくなりますね」
そう言うとカミロさんは、いきなり両の二の腕を掴むと、大真面目に顔を覗き込んでくる。
カミロ「まさか……何か罪を犯したのか?」
○○「い、いいえ……例えばの話です」
カミロ「そ、そうか……」
ほっとした後、私の腕を掴んでいることに気付いて、ぱっと手を離した。
カミロ「すまない。つい焦って」
カミロさんが気まずそうに視線をそらす。
○○「私こそ……誤解させてすみません」
カミロ「よく考えれば、○○のような清らかな女性が罪を犯すはずがなかった」
清らかなどと言われて、私は顔を赤くする。
○○「そうでしょうか……」
カミロ「ああ……オマエは大丈夫だ」
じっと見つめられて、とくんと心臓が鳴った。
その時、通りすがる人がカミロさんに声をかけた。
カミロ「彼は部下の一人だ」
囁かれ、私は一礼をする。
そのまま会釈をして通り過ぎると思っていたけれど、カミロさんは部下の人に近づいていき……
(カミロさん?)
カミロさんは部下の人の目の前に立つと、服装に手をつけた。
カミロ「……裾が乱れていた」
どうやら、服装を正してあげていたらしい。
(面倒見がいい部分もあるんだ)
突然近づいてきたカミロさんに戸惑っていた部下の人も、裾を直してもらいほっとした様子だった。
部下「ありがとうございます、カミロ様!」
笑顔でお礼を告げると、明るくカミロさんに話しかける。
部下「カミロ様、綺麗な人と一緒ですね。彼女さんですか?いいなあ。うらやましいです」
○○「あ……あの」
からかう口調に顔が熱くなって、思わず両手で頬を覆う。
カミロ「おいっ」
カミロさんは咎めるような厳しい声で、部下の人に怖い顔を向けた。
カミロ「彼女は私の恩人だ。失礼なことを言うな」
カミロさんがじろりと部下の人を睨むと……
部下「す、すみません。どうぞごゆっくり」
それだけ言って、一瞬のうちにいなくなってしまった。
カミロ「すまない。部下の教育不行き届きだった」
○○「気にしてませんから」
カミロ「俺が気になるんだ。もっとこの国のいいところを見て欲しいんだが、うまくいかない。オマエには、少しも不愉快な記憶を残してもらいたくない」
真剣な口調と生真面目な瞳が私を射ぬく。
その眼差しに打ち抜かれたように、心臓がドキドキと音を立てていた…―。