第3話 仕事への思い

急遽裁判が閉廷した後、カミロさんは私を部屋へと案内してくれた。

(カミロさん……ずっと押し黙って怖い顔をしてる)

弓を射る厳しげな姿とびりびりとした雰囲気を思い出して、ぶるっと震える。

カミロ「この部屋で問題ないか?」

案内されたのは、落ち着いた調度品の揃った清潔な部屋だった。

○○「はい。ゆっくり休めそうです。わざわざ送っていただいてありがとうございました」

丁寧に頭を下げると、カミロさんは困ったような顔をしている。

○○「……?」

カミロ「……なかった」

○○「え?」

あまりにもぼそりと小さな声だったので、うまく聞きとれない。

カミロ「ゴホンッ」

カミロさんは口に丸めた手を当てて空咳をすると、改めて…―。

カミロ「さっきはすまなかった。驚いただろう?普段はあのような事件は起こらず……静粛な場なんだが」

○○「弓が上手で驚きました」

カミロ「……あれくらい出来なければ、警護は務まらないからな」

謙遜しつつも、自信にあふれた声音だ。

カミロ「いつもはこんなことはないんだが……今日は怖い思いをさせて悪かった」

ひどく気まずそうに眉をしかめる。

○○「いえ……大変なお仕事だって、実感しました」

カミロ「そう言ってもらえると助かる」

ほっと胸をなでおろすカミロさんの様子に、なんだか申し訳ない気持ちになった。

(気遣ってくれてたんだ)

部屋に来るまでのこわばった表情も、申し訳なさから来たんだろうと今はわかる。

カミロ「できればこの国のことを理解して……好きになってくれればいいと、思っていたんだが……それで裁判を見学してもらったのに、失敗だったな」

まつ毛を伏せながら実直に反省されて、私は慌てて首を振った。

○○「私は良かったと思ってます。この国の大切さと責任の重大さを肌で感じられましたから」

安心してもらいたくて笑顔を浮かべると、カミロさんも少し頬の緊張を解いた。

カミロ「オマエは……何て言うんだ、その…―」

彼の視線が、何かを探すように惑う。

○○「カミロさん?」

カミロ「……いいヤツ、なんだな」

わずかに微笑んだ気がして、どきっとする。

けれど、すぐにカミロさんは口元を引き締めた。

カミロ「しかし、今日のようなことは二度と起こらないようにしないとな。審判の国の責務は秩序の根底をなしている。ルールは決して曲げてはならない。そのために人々の生活と命を守りたいという一心で鍛錬に励んでいるんだ」

段々と熱を帯びる言葉に聞き入っていると、ハッとしたようにカミロさんが口をつぐんだ。

カミロ「悪い。どうも仕事のことになると止まらなくなる。いつもミカエラから注意されてるんだ」

○○「ミカエラ……さん?」

カミロ「仲間の一人だ。ミカエラは少し頼りないから目が離せない分、つい、口うるさくしてしまうが」

面倒そうに装っていても、その言葉からは友達思いの優しさが滲んでいる。

(友達も多い人なんだろうな。仕事熱心で……それにとても優しい)

カミロ「明日もオマエを案内したいところがあるんだが……どうだろうか?」

○○「楽しみです」

カミロ「ああ、今度は失態は見せない。明日は今日の挽回をさせてくれ」

そう言うとカミロさんは一礼して颯爽と部屋を出ていった。

(誠実な人だな……)

私は明日のことを考えて、期待に胸を膨らませていた…―。

 

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