裁判は、城の中庭で開かれていた。
多くの人が見学に訪れる傍聴席へとカミロさんが私を案内してくれる。
○○「毎日裁判をしているんですか?」
カミロ「ここは天の国で罪を犯した者を裁く国だからな。もちろん裁判を開かない日がある方がいいが……」
ふと考え深げに、カミロさんは顎を引く。
カミロ「いや、いっそ……裁判そのものが行われなくなることが、理想だな」
法廷を見つめる彼の横顔は、憂いを帯びていた。
(天の国の平和を心から願っているんだ……)
真摯な言い方に誠実さを感じて、じっとその横顔を見つめてしまう。
視線に気付いたカミロさんが、空咳をした。
カミロ「俺を見ても見学にならないぞ……ほら、今、被告人が入ってきた」
ざわざわと傍聴席が囁き声を立てている中、ひとりの痩せた男が被告席へとやってきた。
裁判官の席には、いかめしい表情をした男の人が入ってくる。
○○「カミロさんは裁判官ではないんですか?」
カミロ「俺の役割は被告人の管理や護送だ」
(確かに、そういう仕事が向いていそう……)
思わず、逞しい彼の体つきを眺めてしまっていると……
裁判官「では、早速審議を開始します」
裁判官が木の槌を振りおろし、大きな音を二回鳴らした。
しんと静まり返る法廷に、緊張感が漂う。
カミロ「あの男は天の国で連続して強盗を行った悪党だ。裁かれ、罰を受けなければならない」
淡々と罪状を告げるカミロさんの表情は、厳しさに張りつめていた。
私を迎えたときの緊張とは違う、ぴりぴりとしたものを感じる。
○○「人を裁くということは、人の運命を決めることなんですよね」
カミロ「ああ……」
○○「私まで……緊張してしまいます」
カミロ「そうだな……それも仕事のうちだ。その覚悟がなければ、この仕事はできない」
○○「すごい覚悟ですね」
カミロ「すごくなんてない。平和を守るために……やらなければならないことだ」
カミロさんの精悍な顔つきが、さらに引き締められた。
裁判官「では判決を言い渡します」
いよいよ審判が下るとなったときだった。
被告人「くそっ!」
いきなり被告人の男性が拘束を解いて、傍聴席の人ごみの中へと駆け込んだ。
被告人「どけっ!」
カミロ「! いけないっ……!」
突然カミロさんは傍聴席の区切りに立ててあった柵を乗り越え、素早く弓を構えた。
神経を集中させるカミロさんの睨みつける目が鬼神のようで、近寄れないオーラを放っている。
カミロ「そこまでだ」
ひゅんと空気を裂く音がして、矢が真っ直ぐに逃げる男を目指す。
被告人「ひっ!」
矢は鈍い音と共に男の長い裾を貫き、地面に縫いとめるように突き刺さった。
悔しそうに呻きながら転がる被告人は、すぐに警備兵によって取り押さえられる。
(びっくりした……けど、なんて正確に射るんだろう。すごい腕前……)
結局、その騒動でこの日は閉廷することになった。
突然のことにドキドキする胸を、私はそっと手で抑えながら、警備の人と話すカミロさんを見る。
カミロ「あの男の警備は増やした方がいい」
後の指示をてきぱきと出すカミロさんは凛々しく冷静だ。
最初に会った時のイメージとの違いに、私は驚くばかりだった…―。