審判の国・アルビトロ 影の月…―。
目覚めさせた王子に会うために、私は石畳の建物が連なる審判の国・アルビトロを訪れていた。
使者に連れられて部屋に入ると、男の人が微動だにせず立っている。
(あの人……)
彼はしっかりとした体躯で肩幅も広く、意志の強そうな眉をぴくりとも動かさずに、私をじっと見ていた。
カミロ「……」
(目覚めさせた時は話ができなかったから……なんだか緊張する)
○○「あの……カミロさん」
視線をまったく動かさないままのカミロさんに、使者から聞いていた名前で呼びかけ、私は精いっぱいの微笑みを向ける。
それでも、まるで彫像のように動かない。
(瞬きもしないなんて……)
訝しがりながら、数歩近付いたときだった。
カミロ「そ、それ以上、近づかないでくれ」
カミロさんがいきなり声をあげると、ばさっと真っ白で大きな翼を広げる。
いくつかの羽根が飛びちらかったのを、私は唖然として見つめた。
カミロ「……驚かせてすまない。慣れていなくて……どう対応していいか戸惑ってしまった」
○○「慣れていない……?」
カミロ「ああ……その、女性に……」
カミロさんはコホンと咳払いをし、気を取り直したように私に向き直った。
カミロ「俺を目覚めさせてくれた礼を言う。ありがとう。そして我が国へよく来てくれた。歓迎する」
広げた羽を収めるように閉じながら、少しだけ緊張を解く。
カミロ「……」
(どうしたのかな)
カミロ「……せっかく来てくれたんだ。裁判の様子を見学していかないか。俺が案内するが……」
ちらちらと私を見やる彼の顔に、ほのかに赤みがさしていた。
(本当に、女性に慣れていないんだ)
○○「ぜひ、お願いします」
勇気を振り絞って誘ってくれた気がして、私は大きく頷いた…―。