月SS 王子、心機一転

沈んでいた意識が、ゆっくりと浮かび上がってくる。

まぶたの裏に光を感じ、目を開けると…-。

ソルベージュ「っ……!」

ズキリと、ひどい痛みが頭に走った。

(この痛みは……神からの試練か?)

ハッと顔を上げると、見慣れたバーの景色が視界に飛び込んできた。

(そうか、僕はここで少々、お酒を飲み過ぎてしまったようだな……)

―――――

ソルベージュ『頼むよ、〇〇……少しだけこのままいさせて欲しい……』

―――――

(そうだ、〇〇はどこに……!)

いつの間にか肩にかけられていたブランケットをたたんでから、僕は彼女の姿を探した。

けれど彼女は、どこにも見当たらない。

(いったい、〇〇はどこに……)

昨夜の記憶を掘り返すと、ところどころ、心配そうな彼女の表情が浮かんでくる。

けれど今は、ここにいるのはたった一人、僕だけ…-。

(彼女は……幻だったのか? 迷える僕に会いに来てくれた女神だったのだろうか)

(いや! 彼女が女神であろうとなかろうと関係ない!)

僕を優しく受け入れてくれた、〇〇の温もりが、ただ恋しい。

(ああ、なんということだ……会いたくてたまらないよ、シェリー…)

僕に向けられる彼女の笑顔を思い出し、寂しさに打ちひしがれていると……

??「あ、ソルベージュさん! よかった……」

ソルベージュ「……!」

入口の扉が開き、〇〇が姿を現した。

ソルベージュ「〇〇! ああ、会いたかったよ! いったい僕を置いてどこへ…-。 ……っ!?」

彼女の後ろから現れた男たちを見て、僕は驚愕の声を漏らす。

??「ソルベージュ様! 大丈夫ですか!?」

ソルベージュ「お、お前達はアルマンの従者……いったいどうしてここに!」

〇〇「私が報告したんです。アルマンさん、すごく心配なさっていたので……」

アルマンの従者「ソルベージュ様、アルマン様が城にてお待ちです」

ソルベージュ「アルマンが僕を待っているはずがないだろう! 僕の仕事など、アルマンに任せておけばいい!」

〇〇「ソルベージュさん……」

(〇〇……君はなんて残酷な女性なんだ)

(君は……君だけは、僕のことをわかってくれると思っていたのに!)

ソルベージュ「僕はもうこのソリテュードにはいらない存在なんだ!」

絶望的な気持ちになり、思いのままに叫んでしまうと……

〇〇「ソルベージュさんっ!!」

ソルベージュ「はいっ!?」

〇〇の大きな声に、反射的に返事をしてしまう。

彼女はまっすぐに僕を見つめていて……

(……〇〇?)

〇〇「……皆さんが、どれだけソルベージュさんのことを心配したか……わかっていますか?」

(え……)

〇〇「アルマンさんも、この人達も、私も……皆、ソルベージュさんのことを大切に思っています。 自分なんていらないなんて……言っては駄目ですよ」

ソルベージュ「〇〇……」

彼女の真剣な言葉が、僕の胸にじんと響く。

??「そうですよ、王子」

ガチャリと裏の扉が開き、今度はマスターが顔を覗かせる。

マスター「〇〇様なんて、ずっとつきっきりで王子を介抱してくださってたんですから」

(つきっきりで……?)

(じゃあ、僕の肩にかけられた毛布や、テーブルの上に置かれていた水は〇〇が全部……?)

優しさが体中を駆け巡っていく。

(それに今、確かに君は僕のことを大切だと言って……)

(そうか……そうか……!)

ソルベージュ「ありがとう、〇〇!」

〇〇「え……?」

僕は彼女を力いっぱいに抱きしめた。

ソルベージュ「君の気持ちは伝わったよ」

〇〇「あ、あの……?」

僕の腕の中で、〇〇が照れ臭そうに身じろぎをする。

(かわいいなあ、全く……)

ソルベージュ「だが、僕はまだ未熟者……。 僕は城へ戻り、アルマンに負けないくらいの力を身につけることにする」

〇〇「ソルベージュさん……!」

ソルベージュ「だから……どうかそれまで待っていて欲しい」

〇〇「え? 待つって……」

ソルベージュ「本当は、今すぐにでも君を妻に迎えたいところだけど……神は僕に試練を与えたもうた」

〇〇「妻? あ、あの……?」

(けれど、僕は負けない)

(相手が神だろうとなんだろうと……僕には君という勝利の女神がついているのだから!)

〇〇は、僕を無言で見つめている。

不安そうな彼女を安心させるように、僕は大きくウインクを決めてみせたのだった…-。

 

おわり。

 

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