ソルベージュ「ここは、僕が君をとっておきのお店に案内するよ……」
大人めいた笑みを浮かべる彼が、私を案内してくれたのは…―。
こぢんまりとした雰囲気が素敵な、カフェバーだった。
空調が効いているのか、程よい温度の空気が私を包む。
店員「いらっしゃいませ、ソルベージュ様、どうぞ奥の席へ」
スタッフは慣れた様子で私達を奥にあるボックス席へと案内する。
ソルベージュさんは私の向かいのスツールに腰かけると、亜麻色の髪を指先に巻きつけた。
ソルベージュ「僕の国では、いろんなソルベ、シャーベットがあるけれど……ここはシャーベットカクテルを味わってもらいたいかな」
○○「お酒……ですか?」
メニューを開きながら、彼は私に軽くウインクをする。
ソルベージュ「うん、君も大人の女性だからね」
○○「ソルベージュさん……」
彼の落ち着いた微笑みに、胸が少しだけ高鳴る。
(でも、いいのかな?お城にも戻らずにこんな……)
心ではそう思うのに……
楽しげなソルベージュさんの心を思うと、何も言い出せなくなってしまう。
しばらくすると…―。
バーテンダー「こちらは本日のオススメと、いつものものをお持ちいたしました」
○○「わ……綺麗なカクテル」
運ばれてきたのは、南国らしい色合いの氷がグラデーションを描いた、見た目にも美しいシャーベットカクテルの数々だった。
ソルベージュ「さあ、試してみて?」
○○「はい」
昂揚する気分でグラスに口をつける。
冷たさを隠れ蓑にして、ほのかな甘みがすっと口の中で溶ける。
○○「……っ、美味しい。冷たいのに、喉元を過ぎると熱くなって……」
ソルベージュ「そうだろう?この諸島の海峡深くには氷結晶が沈んでいてね。おかげでこの通り、すごく美味しい氷が作れるんだ」
○○「あ、もしかしてそのせいで外の地面の氷も溶けないんですか?」
ソルベージュ「ご名答」
○○「知らなかったです……こんなふうにお酒をシャーベットでいただいたこともあまり経験なくて……」
ソルベージュ「いいだろう?お酒を楽しみながらデザートまで楽しめるからね」
傾けていたグラスから口を離して、ソルベージュさんが頬杖をつく。
その瞳は、少しだけ寂しそうに遠くを見ていた。
ソルベージュ「そう……ソリテュードの国は、素晴らしいんだよ……王子の僕がいなくても、この通り平和で美味しいものにあふれていて、人々も楽しげで……」
○○「……ソルベージュさん?」
少しだけ低くなった声に、そっと彼の顔を覗き込むと……
○○「……っ」
その場から立ち上がった彼に手を引かれて、視界が揺れる。
次の瞬間…―。
○○「あ……」
彼の不思議な眼差しが私を見下ろしていた。
(ソルベージュさん……酔っているの?)
オレンジ色の光源に照らし出されたミント色の瞳が、ゆらゆらと揺らめいている……
ソルベージュ「僕はね……この国には、いてもいなくてもいい存在なんだ」
○○「そんなことは……っ」
すると、彼の人差し指が私の唇を静かに塞ぐ。
ソルベージュ「そんなことあるのさ。だってこの僕がいなくても、アルマンがいるからね。だから君だけさ……君だけがこんな僕と、一緒にいてくれるって言ったんだ……」
○○「……っ」
唇が寂しげな笑みを浮かべて……
彼から目を離せなくなってると、そっと体が抱き締められた。
(そんなこと、無いのに……)
ソルベージュ「頼むよ、○○……少しだけこのままでいさせて欲しい……」
耳元にささやかれた声は、彼のものとは思えないほど小さい。
私は彼の背中に手を伸ばした。
○○「はい……ソルベージュさん……」
口にした言葉は、南国の夜に静かに溶けていく。
(放っておけない……)
今にも泣きだしてしまいそうな彼の背中を撫でながら、明日はソルベージュさんの笑顔が見られますようにと、秘かに願ったのだった…―。
おわり。