氷原でソルベージュさんが眠りから目覚めた、一ヵ月後…―。
彼の国、ソリテュードの宰相さんからお手紙をいただいた。
『我が王子、ソルベージュを目覚めさせた御礼におもてなしをさせていただきたい。 宰相・アルマン』
(どうして宰相さんから?)
疑問に思っていれば……
文面の最後の方に、走り書きのような拙い一文が書き添えられてあった。
『君に会いたいよ ××× ソルベージュ』
(これは、ソルベージュさんの文字?)
こうして、私は再び氷菓の国・ソリテュードを訪れることになったのだった…―。
城に着いた私を迎えてくれたのは、口髭を生やしたまだ若々しさのある男性だった。
宰相アルマン「お待ちしておりました。宰相のアルマンです」
(この人が、あの手紙の差出人の方?)
○○「このたびは、お招きいただきましてありがとうございます。それで、ソルベージュさんは?」
ソリテュード城を訪れてから、まだ彼の姿を一度も見ていない。
宰相アルマン「それが……ソルベージュ様は、いらっしゃらないのです」
○○「え、お城には戻られてないんですか?」
すると、アルマンさんが言いにくそうに肩をすくめる。
宰相アルマン「いえ、一度は戻ってきたのですが、王子の不在中に私が代わりに政務を行っていたことを知ると……これからも君がやったほうがいいみたいだと、飛び出してしまったのです……」
アルマンさんの話だと、留守の間も問題なく国が回っていたことに、王子はどうやら大変なショックを受けてしまったらしい。
(……繊細な人、なのかな)
宰相アルマン「心配でございます……あのような言動の方なので、他人からは誤解されることも多いのですが心根はお優しく、ご立派な王子なのですよ」
そう言って、アルマンさんは柔らかな笑みを浮かべる。
けれど…―。
宰相アルマン「しかし困りました……私のせいで王子を追い詰めてしまったなんて……私が探しに行っても、素直に戻って来てくださるかどうか。恐らくこの近くにはいらっしゃると思うのですが……」
すっかり恐縮してしまっているアルマンさんが気の毒で、私は軽く挨拶をすませると、王子を探しに街に出ることにした…―。
ソリテュードの街は、南国にも関わらず、大地に張った氷のおかげで、適度な涼しさが保たれている不思議な国だった。
街の人の話から、カフェバーで王子の姿を見たと知り、向かってみれば……
ソルベージュ「うっぷ……」
(すごい……本当に近くにいた)
店のお客さん達から微妙に距離を取られた窓際に、ソルベージュさんの姿を発見した。
彼の前のテーブルには、空の酒瓶がいくつも並べられている。
○○「ソルベージュさん……?」
(こんなにたくさん……ひとりで全部飲んだの?)
ソルベージュ「ん……君か。そうだった、呼んでいたんだったかな……?」
彼は眠たげにまばたきをしながら起き上がると、周囲の様子を確認する。
店員やお客さん達が、腫れ物を扱うような目でこちらを見ている。
ソルベージュ「ああ、僕は何やら、やらかしてしまったようだね……滅多にないのだけれど」
よく見れば、ソルベージュさんの目元は赤く腫れている。
○○「何があったんですか?」
ソルベージュ「ああ、この僕に興味を持ってくれるのかい?マドモアゼル」
○○「……っ」
いきなり顔を寄せられたせいで、つい仰け反ってしまう。
ソルベージュ「聞いてくれるかい?この僕を襲った悲劇の除幕を……!」
彼は自分に酔いしれるように自らの肩を抱くと、流れるように私に向かって語り出したのだった…―。