第2話 酔いどれ王子

氷原でソルベージュさんが眠りから目覚めた、一ヵ月後…―。

彼の国、ソリテュードの宰相さんからお手紙をいただいた。

『我が王子、ソルベージュを目覚めさせた御礼におもてなしをさせていただきたい。 宰相・アルマン』

(どうして宰相さんから?)

疑問に思っていれば……

文面の最後の方に、走り書きのような拙い一文が書き添えられてあった。

『君に会いたいよ ××× ソルベージュ』

(これは、ソルベージュさんの文字?)

こうして、私は再び氷菓の国・ソリテュードを訪れることになったのだった…―。

城に着いた私を迎えてくれたのは、口髭を生やしたまだ若々しさのある男性だった。

宰相アルマン「お待ちしておりました。宰相のアルマンです」

(この人が、あの手紙の差出人の方?)

○○「このたびは、お招きいただきましてありがとうございます。それで、ソルベージュさんは?」

ソリテュード城を訪れてから、まだ彼の姿を一度も見ていない。

宰相アルマン「それが……ソルベージュ様は、いらっしゃらないのです」

○○「え、お城には戻られてないんですか?」

すると、アルマンさんが言いにくそうに肩をすくめる。

宰相アルマン「いえ、一度は戻ってきたのですが、王子の不在中に私が代わりに政務を行っていたことを知ると……これからも君がやったほうがいいみたいだと、飛び出してしまったのです……」

アルマンさんの話だと、留守の間も問題なく国が回っていたことに、王子はどうやら大変なショックを受けてしまったらしい。

(……繊細な人、なのかな)

宰相アルマン「心配でございます……あのような言動の方なので、他人からは誤解されることも多いのですが心根はお優しく、ご立派な王子なのですよ」

そう言って、アルマンさんは柔らかな笑みを浮かべる。

けれど…―。

宰相アルマン「しかし困りました……私のせいで王子を追い詰めてしまったなんて……私が探しに行っても、素直に戻って来てくださるかどうか。恐らくこの近くにはいらっしゃると思うのですが……」

すっかり恐縮してしまっているアルマンさんが気の毒で、私は軽く挨拶をすませると、王子を探しに街に出ることにした…―。

ソリテュードの街は、南国にも関わらず、大地に張った氷のおかげで、適度な涼しさが保たれている不思議な国だった。

街の人の話から、カフェバーで王子の姿を見たと知り、向かってみれば……

ソルベージュ「うっぷ……」

(すごい……本当に近くにいた)

店のお客さん達から微妙に距離を取られた窓際に、ソルベージュさんの姿を発見した。

彼の前のテーブルには、空の酒瓶がいくつも並べられている。

○○「ソルベージュさん……?」

(こんなにたくさん……ひとりで全部飲んだの?)

ソルベージュ「ん……君か。そうだった、呼んでいたんだったかな……?」

彼は眠たげにまばたきをしながら起き上がると、周囲の様子を確認する。

店員やお客さん達が、腫れ物を扱うような目でこちらを見ている。

ソルベージュ「ああ、僕は何やら、やらかしてしまったようだね……滅多にないのだけれど」

よく見れば、ソルベージュさんの目元は赤く腫れている。

○○「何があったんですか?」

ソルベージュ「ああ、この僕に興味を持ってくれるのかい?マドモアゼル」

○○「……っ」

いきなり顔を寄せられたせいで、つい仰け反ってしまう。

ソルベージュ「聞いてくれるかい?この僕を襲った悲劇の除幕を……!」

彼は自分に酔いしれるように自らの肩を抱くと、流れるように私に向かって語り出したのだった…―。

 

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