氷菓の国・ソリテュード 虹の月…―。
氷の大地の上で、指輪がまばゆい光を放つ。
○○「……っ!」
あまりのまぶしさに目を瞑ると……
ソルベージュ「ん、この清々しい光…僕は目覚めたのか?」
その王子様は目覚めたばかりとは思えないほど、素早く優雅な動きでその場から立ち上がった。
ソルベージュ「ああ、さすが神に愛されし存在、ピンチに陥っても救いの手が差し伸べられるとは……」
○○「あの、大丈夫ですか……?」
ソルベージュ「君は……」
前髪を掻きあげながら私を見つめる彼に、自分のことを説明した。
ソルベージュ「成程……それはお手間をかけてしまったようだね」
コホンと咳払いをして、彼は両手を広げてみせる。
ソルベージュ「僕はソルベージュ、神と時代に愛されし寵児さ!」
(寵……児……?)
○○「あ、はい、ソルベージュさん……」
彼のペースに圧倒されて、私は相槌を打つことしかできない。
すると彼は、唇に余裕のある笑みを浮かべて私の手を取った。
ソルベージュ「メルシー、美しき姫君よ」
○○「……っ!」
(今、唇が手の甲に……)
いきなりのことに、心臓が一気に騒ぎ出す……
しかし彼はそんな私をよそに、満面の笑みを見せてくれる。
かと思うと…―。
ソルベージュ「そうだった!僕は思索の旅に出ようかと思っていたのだった」
目を見開いて、彼はいきなり天を仰いだ。
ソルベージュ「失礼、○○、もう行かなければ……」
○○「あ、体の方は大丈夫ですか?」
ソルベージュ「うん、もうすっかり大丈夫だよ、君のおかげでね」
陶磁器のようにひんやりとした両手が、私の手を握りしめる。
ソルベージュ「……じゃ、また日を改めてお礼をするよ、チャオ!」
彼は一瞬片目を軽く瞑ってみせると、楽しげな足取りで去っていく。
私はただ呆然として、去っていく背中を見つめていた。
(……元気そうで良かった)
この出会いが……
私と氷菓の国の王子、ソルベージュさんとの物語の始まりだった…―。