キャピタさんが、物憂げな表情で吊るし終えた靴下を見やる…―。
キャピタ「子ども達は、私以上に期待をしているように見えた。 サンタクロースが来ないとわかったら、どれほどがっかりすることか。 せっかく作業を手伝ってくれたというのに、これでは申し訳が立たないな」
○○「あの……」
陰るキャピタさんの瞳を見つめながら口を開く。
○○「それなら、キャピタさんがサンタの代わりになって。 子ども達にプレゼントを配ってみるというのはどうでしょう?」
キャピタ「代わりに……? そんなことが許されるのか?」
○○「はい。サンタの手が回らないところでは、身近な人が代わりに配ったりするんです」
キャピタ「なるほど、合理的だな。それに……。 もしかしたらそうすることで、サンタクロースというものに近づけるかもしれない」
キャピタさんの口の端には微かに笑みが浮かんでいる。
キャピタ「○○、手伝ってもらえるだろうか?」
○○「もちろんです」
キャピタ「それは心強い。 では、早速街で子どもの喜びそうなものを調達しよう」
(なんだか嬉しい……まさか、キャピタさんがサンタクロースになるなんて)
私は笑顔で頷いた後、キャピタさんと共に再びマッドネスの街へと向かった…―。
…
……
子ども達へのプレゼントを大きな袋に詰め、マッドネスの街から戻った後…―。
男性「おい、あれ……」
女性「一体、何が始まるの?」
大きな袋を抱えるキャピタさんを、人々が首を傾げながら見つめている。
そんな彼に、子ども達は興味津々のようで…ー。
男の子1「ねえ、何してるの?」
数人の子どもが私達を取り囲み、キラキラとした瞳で見上げてきた。
すると……
キャピタ「さあ、いい子にしていた君達に贈り物をあげよう」
キャピタさんは、いつもとは違う口調でそう言った後、袋からプレゼントを取り出した。
(もしかしてキャピタさん、サンタになりきろうと……?)
胸の中が、微笑ましい気持ちでいっぱいになる。
男の子1「わぁ、ホントに!? 僕達がもらっていいの?」
キャピタ「本当だとも。さあ、どうぞ」
男の子1「やったー! ありがとー!!」
○○「はい、あなたもどうぞ」
キャピタさんに倣い、袋からプレゼントを取り出して傍にいる子どもに手渡す。
男の子2「やったぁ! お姉ちゃん、ありがとう!」
○○「どういたしまして」
私は大喜びする男の子の頭を、そっと撫でた。
すると、彼は嬉しそうに目を細めた後……
男の子2「えへへ。お姉ちゃん、なんだか女神様みたい」
○○「え?」
男の子2「僕達にプレゼントくれるし、優しいし。 それに、とっても綺麗! だから女神…―」
キャピタ「いや、それは違う」
いつもの口調に戻ったキャピタさんが、男の子の言葉を遮る。
キャピタ「優しい、などの部分には同意する。しかし……。 女神ではなく、サンタクロースの代理だ」
男の子2「サンタクロース?」
女の子「それ、なあに?」
キャピタ「ああ、教えてやろう。サンタクロースというのは……」
キャピタさんの説明を、子ども達は興味深そうに聞いていた。
(キャピタさんも……楽しそう)
微かな笑みを浮かべる彼を見て、私も嬉しくなる。
幸せな空気に包まれる中、私達は集落中の子ども達にプレゼントを配り歩いたのだった…―。
…
……
プレゼントを配り終えた頃には、すっかり夜の帳が下りていた。
キャピタ「想像以上に大変だったな……。 しかし、貴方のおかげで無事に配り終えることができた」
○○「いえ、私は何も…―」
キャピタ「いや。貴方がいなければ、こう上手くはいかなかっただろう」
キャピタさんは、満足そうに煙管の煙を吐き出す。
キャピタ「サンタクロースの謎こそ解けなかったが……。 それでも、有意義な時間を過ごせた気がする。 不思議だ。謎が解けなかったというのに、こうも満たされた気持ちになるなんて」
○○「キャピタさん……」
キャピタさんの幸せそうな微笑みに、愛おしさが込み上げてくる。
(……そうだ)
○○「あの、キャピタさんにもプレゼントがあるんです」
私はそう言って、掌に乗るくらいの小箱を差し出した。
キャピタ「私に……? 一体、いつの間にこんなものを?」
○○「はい。その、覚えていますか? 二人でイルミネーションを見た時……」
ー----
キャピタ『先ほどは、どこに行っていた? 言ってくれれば、私も同行したものを』
○○『あ、えっと……。 いえ、少し私的なもので……』
ー----
○○「実はあの時、これを買っていたんです。 でも、できれば渡すまで内緒にして驚かせたかったので…」
キャピタ「なるほど。だから、あんなにも言い辛そうにしていたのか」
キャピタさんはそう言いながら、私の手に乗った小箱を見つめた。
そうして、少しの間の後…―。
キャピタ「……思いがけない贈り物を、ありがとう」
キャピタさんの大きな手が、私の手をプレゼントごと包みこむ。
するとその瞬間、ひとひらの雪が私達の間に舞い降りて……
キャピタ「今、貴方を思う気持ちは私の中で……雪のようだ。 柔らかで、真っ白で。 大切なものを優しく包み込むような、そんな気持ちだ……」
そう言った後、キャピタさんは私をそっと抱き寄せる。
キャピタ「本当に抽象的だ。私らしくないな」
○○「そんなこと…―」
少し熱を帯びた彼の手が、私の髪を優しく撫でる。
○○「暖かい……」
キャピタ「ああ……私もだ」
雪に彩られるフォルストで、キャピタさんの温もりに包まれる。
辺りには私達の鼓動と、雪の降り積もる音だけが静かに響いていた…―。
おわり。