朝の白んだ光が窓から差し込んでくる…ー。
キャピタ「やはり、サンタクロースは来なかったか。 靴下が手がかりになると踏んでいたが、どうやら外れたようだな」
舞い落ちる雪を見つめたまま動かない彼に、心がちくりと痛む。
○○「あの……キャピタさん」
キャピタ「……?」
○○「これを受け取ってもらえますか?」
キャピタ「これは……?」
○○「私からのプレゼントです。昨日、買い物の途中に買ってきたもので……」
キャピタ「買い物の途中?……ああ、もしかして、貴方がいなくなった時のことか?」
○○「はい、そうです」
キャピタ「そうか、しかし……」
キャピタさんは、一瞬だけ考え込むような素振りを見せたものの、すぐに私へと視線を戻した。
キャピタ「貴方からプレゼントをもらう理由が見当たらない。 何故、これを私に?」
○○「サンタの手が回らない時は、身近な人が代役をするんですよ」
キャピタ「代役?」
○○「はい。例えば子どもなら、お父さんやお母さんが。 恋人同士だったら、お互いがプレゼントを渡して……」
キャピタ「……?サンタクロースが全部配るのではないのか? 代役を認めてしまってはサンタクロースがいる意味がないだろう」
○○「それは……」
キャピタさんの問いに、私は口ごもってしまった。
キャピタ「……」
彼は、答えを待つかのように私をじっと見ている。
私は深く息を吸い込んだ後、ゆっくりと口を開く。
○○「その……サンタの代役と聞いて、キャピタさんが納得できない気持ちは分かります」
キャピタ「……」
○○「だけど、代役の人達は皆、相手のことを想いながら一生懸命プレゼントを選んで……。 誰かが誰かを想う気持ちも、プレゼントと一緒に渡されているんです。 そのことを……私はすごく素敵だと思うんです」
拙いながらも、心の中の思いを必死に言葉にして紡ぐ。
すると…ー。
キャピタ「素敵……誰かが、誰かを……?」
キャピタさんは、私が言った言葉を噛みしめるようにつぶやきながら、しばらくの間、眉を寄せて考え込んだ。
キャピタ「……なるほど。おぼろげにだが、わかる気がする」
○○「え……?」
キャピタさんは私の手から丁寧な仕草でプレゼントを受け取ってくれた。
キャピタ「最初こそ不可解だったが、誰かが誰かを思う気持ち……。 貴方がそうやってこのプレゼントを選んでくれていたとしたら。 私はそれを嬉しいと感じる」
○○「キャピタさん……」
思いが伝わった喜びが、胸の中に溢れてくる。
キャピタ「ありがとう、○○。開けてもいいだろうか?」
私が頷くと、キャピタさんは大切なものを扱うかのように、そっと赤いリボンを解く。
キャピタ「これは……」
緑色の包みの中から出てきた、小さな家と雪だるまが入っているスノードームが、彼の広い掌に乗っけられた。
○○「こうやってひっくり返してから戻すと、雪が降り注ぐんです」
キャピタ「綺麗なものだな」
キラキラと舞い落ちるスノードームの雪を二人で見つめる。
キャピタ「ああ ……そうだ」
やがて何かを思い出したように、キャピタさんは部屋の隅に行って物を漁り始めた。
(……何だろう)
すると…ー。
キャピタ「○○、こっちへ」
美しい金の刺繍が施された本を手にしたキャピタさんが、そっと私に手招きした。
促されるままに、ソファへ腰を下ろすと…ー。
キャピタ「受け取ってくれるか?」
○○「え……?」
差し出された本と、私の隣に座ったキャピタさんの顔を、交互に見つめる。
キャピタ「貴方の喜ぶ顔が見たいのだが……喜んでもらえるだろうか?」
○○「私がもらって……いいんですか?」
思いがけない贈り物に、私の胸が音を立て始める。
キャピタ「私が貴方のサンタクロースの代役になりたい。 私の大切な本なんだ。だから貴方に受け取ってほしい」
○○「あ……」
キャピタ「贈る相手を想いながら……そうやって選んだつもりだ」
優しく細められる瞳から彼の想いが伝わってきて、私はそっと本を受け取った。
○○「ありがとうございます。あの、中を見てもいいですか?」
キャピタ「もちろんだ」
はやる気持ちを抑えながら、ゆっくりとページをめくると…ー。
○○「綺麗……」
本の中には、ため息が出るほど美しい写真がいくつも並んでいて、私は思わず感嘆の声を上げる。
キャピタ「気に入ってもらえたか?」
○○「はい……こんなに素敵なものを、本当にありがとうございます」
私が笑うと、キャピタさんも同じように笑みを浮かべた。
キャピタ「喜んでもらえて嬉しい。よかったら、少し一緒に見ないか?」
○○「はい……!」
キャピタさんが、私の体に寄せて本を覗き込む。
○○「この風景、とても素敵ですね」
キャピタ「ああ。これは、海賊の国・アンキュラの写真だ。 確か、どこかに解説があったと思うが……。 この辺りは、世界で一番美しい海と称されているそうだ」
○○「そうなんですね。確かに、すごく素敵で……。 ……っ!」
顔を上げると、思った以上に近い距離にキャピタさんの美しい瞳があって、鼓動が大きく跳ね上がってしまう。
キャピタ「……どうかしたのか?」
そうしてお互いに視線を外せないまま見つめあっていると、私達の距離は少しずつ近づいていって…ー。
(キャピタさん……)
外では真白い雪が、しんしんと降り続いている。
寄り添う温かさと、甘やかな予感を感じながら……私はゆっくりと目を閉じたのだった…ー。
おわり。