キャピタさんと共にやって来たマッドネスの街は、イルミネーションの輝きに包まれていた。
幾つも立ち並ぶ高層ビルが、色とりどりの電飾をきらめかせている。
(綺麗……まるで、クリスマスの街並みみたいだけど)
街中の電光掲示板に映し出されているのは、ニューイヤー迄のカウントダウンの数字だった。
(クリスマスはないけれど……新年はあるんだ)
そんなことを思いながら、きらびやかな街の装いに目を奪われていると……
キャピタ「いつもならこの喧騒を鬱陶しく思うところだが……」
同じように街に目を向けていたキャピタさんが、ふっと笑みを浮かべる。
キャピタ「それでは、聞き込みを始めるか」
○○「あっ、はい。わかりました」
私達は街ゆく人に声をかけ、サンタクロースについて尋ねてみる。
けれど……
キャピタ「……誰も知らないようだな」
何人かに声をかけた後、キャピタさんが残念そうに煙管の煙を吐く。
○○「そうですね……やっぱりこの街の人は、クリスマス自体を知らないみたいです」
キャピタ「仕方ない。では文献を当たってみるか……」
そう言うと、キャピタさんは図書館のある方へと足を向けた。
…
……
古い文献のある図書館や、数件の本屋を回ってみたものの、サンタクロースに関する記述は残っていなかった。
キャピタ「……」
キャピタさんが、深く長いため息を漏らす。
○○「キャピタさん……」
(やっぱり、ワンダーメアでサンタクロースの情報を探すのは無理なのかな)
暗い気持ちで視線を落とし、雪の積もる地面を見つめる。
すると……
キャピタ「私は……会いたいんだ」
○○「え……?」
つぶやくような彼の言葉に、私は思わず顔を上げた。
キャピタ「そのサンタクロースという男に、どうしても……。 ……おかしいと思うか?」
○○「そんなことはないですよ。会えるのなら、私も会ってみたいですから」
キャピタ「貴方も? 本当か?」
○○「はい。私も子どもの頃、サンタさんを見る!なんて言って夜遅くまで起きていたことがあって。 大人になった今でも、まだ少しその気持ちが残っているというか……」
キャピタ「そうか」
不思議な色をたたえた彼の瞳が、優しく細められる。
キャピタ「本当に会えたら、聞きたいことがいろいろあるのだが……」
○○「聞きたいこと?」
キャピタ「ああ。貴方から聞いたサンタクロースの話には、不可解な点がいくつもある。 どうやって家に忍びこんでいるのだ? 煙突がない家はどうする? 彼を導くトナカイという生物……空を飛べるということだが、翼もないのに一体どうやって。 そもそも何故子どもだけにプレゼントを配るのだ? それに何故、わざわざ靴下にプレゼントを……」
○○「あ、あの……キャピタさん」
矢継ぎ早に繰り返されるキャピタさんの疑問に、私は瞳を瞬かせた。
キャピタ「靴下……。 貴方は何故、サンタクロースが靴下にプレゼントを入れるか知っているか?」
○○「え……いえ、そこまでは…―」
キャピタ「なるほど……」
キャピタさんはぽつりとつぶやいた後、モノクルを触りながら黙り込む。
そうして、少しの間の後……
キャピタ「……一つ、考えがある」
○○「考え?」
キャピタ「ああ。やはり、何の意味もなく靴下を吊り下げるとは思えない。 それが手掛かりではないだろうか」
○○「え……?」
彼の考えがわからない私は、口ごもってしまう。
そんな私の気持ちを察したのか、キャピタさんはモノクルをかけ直すと……
キャピタ「恐らくは、そのサンタクロースという御仁、靴下にひとしおの思い入れがあるのだろう。 だから、靴下を買い集める」
○○「えっ?」
キャピタ「さあ、夜が更けるまでに可能な限り集めなければ……協力してくれるだろうか?」
○○「えっと……は、はい」
私は呆気にとられながらも、意気揚々とした彼の姿に、首を縦に振る。
キャピタ「そうか。では、早速店を回ろう……と、その前に。 もしサンタクロースに会えたら、どうする?」
キャピタさんは、心なしかいつもより無邪気な顔で私にそう問いかけた。
(サンタクロースに会えたら……)
○○「お礼を言います。たくさんの夢を与えてくれて、ありがとうございますって」
キャピタ「なるほど。私には少々理解しがたいが、貴方らしいな」
○○「私らしい……そうでしょうか?」
キャピタ「ああ。質問よりも先に、礼を言うとは」
~月~
○○「握手してもらいます」
キャピタさんはそう言った後、私に微笑む。
そして……
キャピタ「では行こうか。サンタクロース好みのものが、見つかるといいが」
○○「はい」
こうして私とキャピタさんは、たくさんの靴下を買い込むべく、冬の街の中を、並んで歩き始めたのだった…―。