第2話 サンタクロースの謎

幻想的に揺らめく灯りを辿りながら、私達はフォルスト城を目指す。

その道すがら、私はキャピタさんにクリスマスの説明をしていた。

○○「サンタクロースは夜に、こっそりと家の煙突からやってきて……。 世界中の、いい子にしていた子どもの枕元にプレゼントを置いていくんです」

キャピタ「子どもだけ……なのか?」

キャピタさんが、少し残念そうな声を上げる。

○○「は、はい……」

キャピタ「では私達は、もう大人だからプレゼントをもらうことはできないのだな。 サンタクロースなる謎の人物からもらえるプレゼントには、非常に興味があったのだが」

キャピタさんは、遠くを見やりながら小さくため息を吐いた。

けれど、次の瞬間……

キャピタ「しかし、そんなことよりも……だ。先ほど『世界中に』と言っていたな?」

○○「はい。それが何か……?」

キャピタ「サンタクロースというのは、一人しかいないのだろう? 一体どうやって配っている? そもそも、そんな慈善活動をしている理由は何だ?」

○○「え……すみません。それはちょっと、わかりません……」

キャピタ「謎、ということか。なるほど……実に興味深いな」

キャピタさんは足を止めて、考えを巡らせるような素振りを見せる。

(相変わらずだな)

キャピタさんは、自分の知らない知識や謎を探求することを生きがいとしていた。

微笑ましい気持ちを抱きながら、目の前の彼を見つめていると……

キャピタ「ああ、すまない。好奇心にかられて、長旅で疲れている貴方を質問攻めにしてしまったな」

私の方へと向き直ったキャピタさんが、謝罪の言葉を口にする。

そんな彼に、私は笑いながら首を振って…―。

○○「いえ、そんな。私は楽しいですから」

キャピタ「そうか? ……そういえば、クリスマスの話をする貴方の表情は、心なしか華やいでいたように見える 一体、何故だ?」

○○「そうですね。やっぱり、クリスマスはわくわくするイベントですから」

キャピタ「わくわく? プレゼントがもらえないのにか?」

○○「はい。華やかな街を見ているだけでも楽しいというか……」

キャピタ「なるほど、そういうものなのか」

キャピタさんは考え込むようにうつむいた後、顔を上げる。

キャピタ「できれば、もっとクリスマスの話を聞きたいのだが……。 特にサンタクロースには興味が尽きない。詳しく教えてもらえるか?」

○○「えっと、そうですね……真っ赤な衣装を着ていて、恰幅のいいおじいさんで」

キャピタ「他には?」

○○「立派な白いヒゲに覆われていて、あとは……」

キャピタさんに矢継ぎ早に問われてサンタクロースについて思いつく限り説明をするけれど、だんだんと説明できることが少なくなってきて、言葉に詰まってしまう。

キャピタ「他には何かあるか?」

○○「……すみません。私が知っているのはこれくらいです」

キャピタ「そうか。少々残念だが……。 もしかしたら、この不思議の国にも何か情報があるかもしれない」

彼の知性的な瞳が細められ、微かな輝きを帯びる。

キャピタ「一緒に街へ出かけてみないか? 貴方がいれば、サンタクロースの情報を集めやすい……」

○○「えっ?」

その申し出に、私はしばらく目を瞬かせる。

(クリスマスが無い不思議の国に、サンタクロースの情報があるとは思えないけど……)

彼のモノクルに映ったランタンの灯りが、情熱的に燃えているように見えた。

(私が断ったとしても、キャピタさんはきっと一人で調べるんだろうな)

(それに、もし『アリス』がいたのなら……何か残っているかもしれないし)

○○「わかりました」

私の返事を聞いて、キャピタさんが小さく笑みを浮かべた。

キャピタ「それはありがたい。では、早速出かけよう」

すっと、彼の手が私の前に差し出される。

キャピタ「これからの道には、灯りを置いていない。はぐれてはいけないからな。 それに、多少は温かいだろう。今日は冷える」

○○「……はい」

私の手を、キャピタさんの綺麗な指が包みこむ。

(温かい……)

フォルストの冬の寒さが、二人の距離を自然と縮める。

彼の隣に寄り添うように歩きながら、私達は街へと向かったのだった…―。

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