幻想的に揺らめく灯りを辿りながら、私達はフォルスト城を目指す。
その道すがら、私はキャピタさんにクリスマスの説明をしていた。
○○「サンタクロースは夜に、こっそりと家の煙突からやってきて……。 世界中の、いい子にしていた子どもの枕元にプレゼントを置いていくんです」
キャピタ「子どもだけ……なのか?」
キャピタさんが、少し残念そうな声を上げる。
○○「は、はい……」
キャピタ「では私達は、もう大人だからプレゼントをもらうことはできないのだな。 サンタクロースなる謎の人物からもらえるプレゼントには、非常に興味があったのだが」
キャピタさんは、遠くを見やりながら小さくため息を吐いた。
けれど、次の瞬間……
キャピタ「しかし、そんなことよりも……だ。先ほど『世界中に』と言っていたな?」
○○「はい。それが何か……?」
キャピタ「サンタクロースというのは、一人しかいないのだろう? 一体どうやって配っている? そもそも、そんな慈善活動をしている理由は何だ?」
○○「え……すみません。それはちょっと、わかりません……」
キャピタ「謎、ということか。なるほど……実に興味深いな」
キャピタさんは足を止めて、考えを巡らせるような素振りを見せる。
(相変わらずだな)
キャピタさんは、自分の知らない知識や謎を探求することを生きがいとしていた。
微笑ましい気持ちを抱きながら、目の前の彼を見つめていると……
キャピタ「ああ、すまない。好奇心にかられて、長旅で疲れている貴方を質問攻めにしてしまったな」
私の方へと向き直ったキャピタさんが、謝罪の言葉を口にする。
そんな彼に、私は笑いながら首を振って…―。
○○「いえ、そんな。私は楽しいですから」
キャピタ「そうか? ……そういえば、クリスマスの話をする貴方の表情は、心なしか華やいでいたように見える 一体、何故だ?」
○○「そうですね。やっぱり、クリスマスはわくわくするイベントですから」
キャピタ「わくわく? プレゼントがもらえないのにか?」
○○「はい。華やかな街を見ているだけでも楽しいというか……」
キャピタ「なるほど、そういうものなのか」
キャピタさんは考え込むようにうつむいた後、顔を上げる。
キャピタ「できれば、もっとクリスマスの話を聞きたいのだが……。 特にサンタクロースには興味が尽きない。詳しく教えてもらえるか?」
○○「えっと、そうですね……真っ赤な衣装を着ていて、恰幅のいいおじいさんで」
キャピタ「他には?」
○○「立派な白いヒゲに覆われていて、あとは……」
キャピタさんに矢継ぎ早に問われてサンタクロースについて思いつく限り説明をするけれど、だんだんと説明できることが少なくなってきて、言葉に詰まってしまう。
キャピタ「他には何かあるか?」
○○「……すみません。私が知っているのはこれくらいです」
キャピタ「そうか。少々残念だが……。 もしかしたら、この不思議の国にも何か情報があるかもしれない」
彼の知性的な瞳が細められ、微かな輝きを帯びる。
キャピタ「一緒に街へ出かけてみないか? 貴方がいれば、サンタクロースの情報を集めやすい……」
○○「えっ?」
その申し出に、私はしばらく目を瞬かせる。
(クリスマスが無い不思議の国に、サンタクロースの情報があるとは思えないけど……)
彼のモノクルに映ったランタンの灯りが、情熱的に燃えているように見えた。
(私が断ったとしても、キャピタさんはきっと一人で調べるんだろうな)
(それに、もし『アリス』がいたのなら……何か残っているかもしれないし)
○○「わかりました」
私の返事を聞いて、キャピタさんが小さく笑みを浮かべた。
キャピタ「それはありがたい。では、早速出かけよう」
すっと、彼の手が私の前に差し出される。
キャピタ「これからの道には、灯りを置いていない。はぐれてはいけないからな。 それに、多少は温かいだろう。今日は冷える」
○○「……はい」
私の手を、キャピタさんの綺麗な指が包みこむ。
(温かい……)
フォルストの冬の寒さが、二人の距離を自然と縮める。
彼の隣に寄り添うように歩きながら、私達は街へと向かったのだった…―。