そしてまた数日後…-。
ジェリーが初めて挑戦するアクション映画は、クランクインを迎えた。
長い撮影の間に、私はロマンディアを去ることになった。
ジェラルド「映画が完成したら……必ず招待します。 その時は、絶対に来てくださいね!!」
ジェリーとそう約束を交わして……
…
……
そして、季節が幾度か巡ったある日のこと…-。
映画が遂に完成したと聞き、私はロマンディアを再訪した。
(ここに来るのも久々……ジェリーは元気にしてるかな?)
ジェリーに会える……
そのことが私の胸をいっぱいにし、足取りを軽やかにさせていた。
今日は初めての完成試写会ということで、会場になっている劇場に向かうと……
ジェラルド「〇〇-!」
遠くから聞き覚えのある声が私を呼び、顔を上げる。
そこには…-。
〇〇「ジェリー!」
以前会った時より、ぐっと大人っぽくなったジェリーがいた。
役作りのために黒く染めた髪は、すっかり様になっており、これまでのイメージとは全く違う魅力をまとっている。
(どうしてだろう……前よりもずっと、頼もしく見える)
こちらへと駆け寄ってくれたジェリーは、ごく自然に私の手を取り、映画館の前に敷かれたレッドカーペットの階段をエスコートしてくれた。
(大きな手……)
以前に手を取られた時には感じなかった、彼の手の感覚に驚いていると……
駆けつけた観客1「まあ、あれは……本日ご招待されているトロイメアの姫君?」
駆けつけた観客2「さすがジェラルド様、交友関係が広いのね」
沿道に駆けつけた人々が、騒ぎ出した。
ジェラルド「さあ、足元に気をつけて……」
〇〇「はい」
こうして気を使ってくれるところは、前の王子様らしい彼と何も変わらない。
なんだか少し懐かしくなって、私は頬を緩ませた…-。
…
……
こうして…-。
シアターの中へ案内されると、舞台挨拶の後に映画の上映が始まった。
(ドキドキする……)
関係者席の片隅でジェリーと隣り合って座り、スクリーンに向き合う。
映画は派手なアクションシーンが盛りだくさんの、手に汗握るものだった。
危機に重ねた危機を華麗な活躍で、ジェリー扮する主人公が乗り越えてゆく。
(かっこいいなあ……!)
食い入るように映画に夢中になっていると……
ジェラルド「……」
ジェリーが周りのスタッフや招待客に気づかれないように、私の手に指を重ねてきた。
ジェラルド「このシーンは、特に何度もリテイクが出て撮り直したんです。 そんなにすぐには上手く立ち回りができなくて……大変でした」
スクリーンの中のジェリーが、俊敏な動きで観客を沸かせる。
その一挙一動に、彼がどれだけ努力を重ねてきたかが伝わってくる。
〇〇「かっこいい……」
スクリーンの中のジェリーが車から身を乗り出し、銃を構えたその時…-。
〇〇「!!」
パンッと激しい音が聞こえたかと思ったら……
私の唇に、柔らかいものが触れていた。
(今……)
ジェラルド「……ごめんなさい。 我慢できなかった」
小さな声で耳元に囁かれて、胸が早鐘を打ち始める。
触れたのは、彼の唇……
重ねられた手もいつの間にか、指を絡まるようにされて……
〇〇「ジェリー……?」
ジェリーはすまなさそうに笑うと、視線をスクリーンに戻すように促した。
ジェラルド「大変だったのですが、最後まで頑張れたのはすべてあなたのおかげです、〇〇」
〇〇「そ、そんな……」
至近距離からの彼の熱のこもった囁きに、顔が熱くなる……
その上スクリーンの中の彼は、とびきり男らしい姿を演じているから、感動のせいで、胸までも熱くなり始める。
(ど、どうしよう……)
緊張してるのは、映画の役どころの彼のせいなのか、それとも、私の隣にいるジェリー自身のせいなのか……
そっと、視線をスクリーンから彼に移す。
すると彼は、悠然と微笑んでみせた。
ジェラルド「ねえ、〇〇? この後またいつかみたいに、二人で食事に行きませんか? 僕の初めてのアクション映画の感想を、落ち着いたところであなたから聞きたいんです」
〇〇「ジェリー……」
繋いだ手がさらに強く絡め始める。
大きな手……
前よりもずっと自信に満ちた男らしい長く力強い指先。
ジェラルド「ダメでしょうか……?」
彼の甘い声が、私の耳元を擽る。
〇〇「……いいえ」
そして照明が暗く落とされた中、辺りの視線がクライマックスシーンに釘づけなのを確認すると…-。
〇〇「っ……!」
彼はもう一度、私の唇にキスを仕掛けてきた。
薄めの唇が柔らかく、私の唇を撫でていく……
ジェラルド「ふふ、〇〇って指先だけじゃなくて、唇もマシュマロみたいに柔らかなんですね」
そう優しげに語られた言葉は、私の頭の中を真っ白に染め上げて……
私はすっかり彼以外のことを考えられなくなってしまったのだった…-。
おわり。